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第71話
「玩具入れて始業式に皆の前で厭らしく乱れるか、家で俺の気の済むまで仕置きされるか。どっちがいい?」
「は?」
「選ばないならどっちもね」
「な、何だよ、突然」
箸を持った手は固まったまま、背中には冷や汗が伝う。
(何で今日こんなに機嫌悪いの? なんなの本当に)
「何って、俺のこと叩いた罰と、俺に言わないで勝手に決めた罰、お前って呼んだことの罰だよ」
「何で、俺ばっかり……」
「昨日まで優しくしてあげてたでしょ」
「意味……わかんない」
正和さんは立ち上がると泣きそうな俺の目元にキスをして微笑んだ。
「ごちそうさま」
キッチンに自分の茶碗を下げに行く正和さんを見て、これ以上食べる気になれなくて俺も食器を片す。
歯を磨いてから、自分の部屋で明日の準備を済ませるが、正和さんの部屋に行く気ら起きなくて、学校に持って行く鞄をぼーっと見つめた。
確かに勝手に決めたのは悪かったかもしれない。だが、送り迎えするというのも正和さんが勝手に決めた事だ。
つい「お前」って、呼んでしまったのは俺が悪かったが、そこまで怒られる程の事でもないと思う。
ぼーっと考えていると正和さんが部屋に来た。
「純。用意できてるなら早くおいでよ」
厳しい口調ではないが、言い方に少し棘がある。胸がバクバクするし、ズキズキする。
(なんか泣きそう……)
本当は行きたくなかったが、これ以上怒らせるとまた冷たい態度をとられそうな気がして、言う通りにした。
正和さんの近くまで行くと手を握られて、その手をそっと握り返す。
「いい子」
優しく微笑んでそう言われると少し安心した。手を引かれて、彼の部屋まで来るとベッドに二人で横になる。
「もっとこっちにおいで」
「っ……」
半人分くらい距離をとっていたら、間合いを詰めるように言われて緊張した。
「今日は何もしないよ。寝るだけだからおいで」
恐る恐る正和さんに近づいて、肩をぴったりとくっつけると頭を撫でられる。
「正和さん」
「ん?」
「手、叩いてごめんなさい。本当にそんなつもりなくて……その、腰が痛かったからあれ以上は辛くて」
意を決して謝ると正和は無言になった。
「……勝手に決めちゃったのもごめんなさい。学校行くくらい、いいと思って……。正和さんに対してお前って言ったのもすみませんでした。許して、ください……」
顔を上げると彼はニヤリと口角をあげていた。楽しそうに目を細めているから、いくらか機嫌が良くなったんだと悟る。
「許してもらうにはどうすれば良いと思う?」
「どうする……って、言われても」
(どうしたら……)
「前も教えたよね」
「……っ」
「純?」
顔を赤くして緊張している俺に、とても優しい声音で促すように名を呼んだ。
「っ……お仕置き、してください……。でもっ、学校でとか嫌だ……許して……」
「仕置きの内容は俺が決めるよ。それにさっき選ばなかったでしょ」
(そん、な……っ)
「おやすみ、純」
彼はそう言って、手元のリモコンで電気を消した。
明日される事が怖くて、心臓がバクバクする。どうにかしてやめてもらえる方法を考えるが、俺には思いつかなかった。
「ぅっう……ひ、っく」
正和さんはそっと俺の体を抱きしめて優しく頭を撫でる。
「愛してるよ」
嫌な事をしてるのは正和さんなのに、そうやって優しくされると、それ以上抵抗する気も起きなくて。彼の胸の中で静かに泣いた。
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