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第74話

「可愛い。少し厚めのインナー持ってきてあげるね」  正和さんはクローゼットから白い半袖シャツを出した。それを俺の頭に被せて着せようとしてくるので押し返す。 「やっ……!」 「だってこんなの透けてたら変態だってバレちゃうよ」 「違う……解いて、これ外して」 「だーめ。良い子にして」  インナーのシャツを無理やり着せられて、その上にYシャツを着せられる。ボタンを留めていく正和さんをただ見ている事しかできなくて、涙がポタポタ零れた。  チェックの模様が入ったグレーの制服のズボンを渡されて、唇をぎゅっと噛む。 「待ち合わせ場所まで送ってあげるね。早くしないと友達まで遅刻しちゃうよ」  正和さんはそう言って部屋を出て行った。  どうしようもないので諦めて、震える手で下着とズボンを履く。靴下を履こうとクローゼットまで歩くと、後孔に入っている玩具がゴリゴリ当たって、息を詰めた。 「っ……」 (このまま学校とか無理……)  スマホを確認すると、出発予定時刻を既に七分も過ぎていた。車で行けばギリギリいつも通りの時間に交差点に着くだろうが、行きたくない。  でも行かなかったら、きっともっと酷い事をされるのだ。 (拓人には先に行っててもらおう……)  泣き止んでティッシュで涙を拭いて鼻をかみ、それをゴミ箱に捨てて深呼吸する。 「純、何してるの? 行くよ」  メールを打ち始めるとスーツ姿の正和さんが部屋に来て、クローゼットから俺の靴下とネクタイを引っ張り出した。 「拓人に遅れるって……」 「今出れば間に合うでしょ」 「だって……!」  正和さんは俺の靴下とネクタイと鞄を持ち、俺の手を握って歩き出す。玩具が刺激にならないよう歩いたら、少しガニ股っぽくなった。  靴を履いて玄関を出ると、半ば無理やり車に乗せられ、靴下とネクタイを渡される。  仕方なく靴下を履いたり、制服を整えたりしていたら、あっという間に交差点の近くまで来た。 「ここで降りる?」  待ち合わせ場所の少し手前で正和さんが優しく聞いてくる。 「うん……行って、きます」 「行ってらっしゃい」  車から降りて少し行くと、ひよこのオブジェの脇に拓人が立っているのが見える。 「ごめん、遅れた」 「おー、おはよー。遅れるなんて珍しいじゃん」  いつもなら拓人より早く来ているからか、不思議そうな顔をしていた。歩きながら、なるべく平然を装って会話する。 「ちょっと、イロイロあって……」  そう言って言葉を濁すと、拓人は首もとをじーっと見てきた。まさか、ひと目見ただけでバレてしまったのだろうか。

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