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第75話
「その首輪、何でつけてんの?」
好奇心に満ちた瞳を向けてくる拓人に、顔は見る見るうちに赤く染まってしまう。だが、指摘されたのが首輪で良かった。
「こ、これは……その……」
「そういう趣味あったっけ?」
「ち、違っ……恋人が……」
拓人はキョトンと固まった後、驚いたみたいに目を見開く。
「恋人いたんだ! この学校?」
「ここ男子校だしっ」
頭をふるふると横に振るが、目をキラキラ輝かせて興味津々に聞いてくる。
「違うんだ。男? 女? いくつ?」
「……男か女なんて聞かないだろ、普通」
「そうかなぁ。で、男? 女?」
何でこんなにしつこいんだろう。今日ほど拓人が嫌な日はない。
歩くたびに玩具はあたるし、縄が敏感な肌を擦って息が上がる。意識しているせいなのか、薬のせいなのかは分からないが体が火照って、それどころではないのだ。
「純の彼氏、何歳?」
「なんで、彼氏だって知って……!」
「カマかけただけなのにー。それに彼女だったら言うでしょ、普通。その人いくつなの?」
「……三十一」
「すごいな、いつからだよ」
次から次へとくる質問に、頭の中がぐるぐるする。いつも以上にテンションの高い拓人に疲れてきた。
「秋休み」
「まじかー。で、なぜに首輪?」
「……あの人の、趣味だから」
「うわあ、俺なら絶対無理」
(俺だってあんな変態無理だ……)
そうして、会話をしている内に学校に着いた。教室についたのはギリギリで、チャイムが鳴ったと同時に席につく。
拓人はまだ何か聞きたそうな様子だったが、すぐに先生が来て出欠を取り始めたので助かった。
「っ……はぁ……はぁ、ぅ」
体が熱い。胸がドキドキするし下腹部がゾクゾクする。今日は始業式とHRしかないが、こんな状態でもつだろうか。
「――じゃあ、五十分までに体育館に行くように。遅れんなよー」
先生は課題の回収をして、いつものように適当な話をすると、最後に始業式の時間を伝えて教室を出て行った。
「何その首輪ー!」
「えー、姫が首輪してる!」
「っ……姫じゃ、ない」
佐野勇樹 の言葉に続いて、笠原将悟 まで寄ってくる。俺の事をいつも姫様扱いしてくる笠原の言葉を否定すると、拓人も席の近くに来た。
「……って言うか顔赤いけど平気? なんか元気ないし」
不思議そうな顔で心配してくる笠原。いつもなら「姫じゃない!」とか言って、軽いパンチをくらわせた後、そのまま抱きつかれて暴れるのがお決まりのパターン。それがないから元気がないと思ったのだろう。
熱を計るように額に手を当てられて体が跳ねる。今の俺にはそれさえ、快感となって腰の辺りがゾクゾクと痺れた。
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