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第77話

(正和さん……)  校長の長い話が終わると、あちらこちらで生徒が小声で話していて、体育館内は少しだけざわざわする。 「ひゃあ、ん」  そんな中、突然背筋を下から上になぞられて変な声が出る。結構大きな声だったのか周囲の生徒はこちらを見た。恥ずかしくて耳まで赤く染まる。  後ろから勇樹のクスクス笑う声が聞こえるから、すぐに勇樹の仕業だと分かった。振り返って睨み付ければ、何故か玩具の振動が今まで以上に強くなる。 「あっぁぅ」  耐えきれず床にしゃがみ込むと、振動はピタリとやんだ。心配したのか、勇樹が背中に手を添えて顔を覗き込んでくる。 「ご、ごめん……てか、え? これって……縄?」 「っ……」  背中に回した手が服越しに縄を引っ張る。 「あっ、ぁぁ」 「うわ、えっろ」  確認する為で他意はないのだろうが、玩具が深くまで入ってきて、胸も擦れて凄い気持ちが良かった。 「あっ、やだ……やめ」 「えーまじかよ……酷いことすんなー」  拓人の引いている声が聞こえる。引いているのは俺に対してではなく、こんな事をした正和さんに対してなのだろう。  勇樹は面白がって、縄を引っ張るのをやめてくれない。ぐいぐいと引っ張ったり緩めたりされれば、耐えられなくて、体をビクビク震わせた。 「はぁ、あ、ほんとにやめ」 「やめてやれよー」  拓人が勇樹の手を掴んでやめさせると、ここにはいないはずの人が目の前に来た。 「正和、さん……?」 (何でここに?) 「立てる? 気分悪い?」  口調はいつもと違って爽やかだし、白々しい事を言っているが、今朝と同じスーツを身に(まと)っているこのイケメンは正和さんだ。 「どうして……ここに……」 「ふふ、だってこの学校にいくら寄付してると思ってるの? 始業式の見学くらいさせてもらわないと」  そう言う正和さんは、口元には笑みを浮かべているが目が怖い。  きっと勇樹が触っていたからなのだろう。明らかに怒っている。  元はと言えば正和のせいなのに理不尽だ。 「純の彼氏、超イケメン」とか「いったい何者」とか二人がひそひそ会話しているのが聞こえた。  体育館内は「誰か倒れたのかな」とザワザワしていて、近くにいた生徒は一連の流れを見ていたので、ニヤニヤしながらこっちを見ていた。 (早く帰りたい……) 「まさかず、さん」  震える声で名を呼ぶと彼は俺の肩を支えるように起こし、拓人と勇樹にニッコリ微笑む。 「うちの純が迷惑かけてごめんね」 (迷惑って……誰のせいだ) 「帰るよ純。今日は早退」  そう言って肩を支えられながら体育館を後にした。

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