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第79話

 刺さる瞬間は痛かったが、刺さってしまえば、それ程痛みは感じない。だが、ゆっくりされる事で恐怖心は次第に増していき、心臓がドキドキする。 (怖い怖い怖い……う、痛いぃぃ!) 「痛っ、痛いっ、や、だめ……」  液体を入れているのか手には激痛が走った。今まで経験した注射の中で一番痛い。いや、比べるまでもなく群を抜いて痛い。 「ふふ、痛がる顔も可愛い」  注射針をゆっくり抜かれると注射絆を貼られた。 「でも、そのうち痛いのも気持ち良くなるように教え込んであげるからね」 (本当に……誰かこの変態なんとかして)  正和さんは俺をベッドに残して、注射器をゴミ箱に捨てに行った。こちらに戻ってくると手には縄を持っていて、思わず後退りする。 「早退した悪い子にはどんな罰が良いと思う?」  縄をピンッと張って、楽しそうに目を細め、人の悪い笑みを浮かべる。 「それはっ……正和さんのせいで」 「言い訳は聞きたくないな」  そう言って俺の手をとると、両手首に縄を巻き付ける。そのまま頭の後ろに俺の腕を回して、既に背中に縛ってある縄に繋げた。  二の腕と前腕をくっつけるように固定されて、手の自由は完全に奪われる。 「やだ、正和さん……」 「怯えてるの? 可愛いね」  そう言って優しくキスをする。唇がジンッと痺れて体が熱い。こんなの嫌なはずのに、触って欲しくてたまらない。 「ちゃんと効いてるみたいだね」  彼はクスッと笑って俺の事をベッドから下ろし、部屋の隅に移動する。檻が置いてあるこの一角に連れてこられて不安になった。嫌な予感がする。 (まさか、その檻に……?)  しかし、俺が危惧した事とは別の意味で嫌な予感は的中する。  腕を拘束している縄の余った部分を、天井から伸びた鎖に括り付けられた。足の裏はギリギリ床につくが、それ以上歩く事ができないのはもちろん、しゃがむ事さえできない。 「ここで反省しててね」  そう言って玩具のスイッチを入れる。中心部の根元にはリングがついたままだ。 「正和さんっ……」  扉の方へ歩いていってしまう正和さんに焦りを感じ、慌てて呼びとめた。 「ゃ、いかないで……っ、ごめんなさい、いかないで」  瞳には溢れ出しそうなくらい、大粒の涙が溜まっていて、視界がぼやける。いつもならお仕置きでも側に必ずいてくれるのに。 (やだ……やだ……)  サーッと血の気が引いて、身体から体温が遠退いていく。 「正和さんっ」  呼び止めるが、彼はこちらを振り向きもせず、部屋を出て行ってしまった。与えられる刺激と無視された悲しさに悶え苦しみながら、涙をポロポロ零して大好きな人の名を呼ぶ。 「正和さん……はぁ、っ、正和さっ……」

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