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第82話

 なんだかフワフワして、あったかくて心地いい。  目をあけると黒い大理石の床と胸まで浸かったお湯が視界に映り、浴室にいるんだとわかる。  お腹に回された手は正和さんだろうか。背中の温もりを確かめるように顔を後ろへ向ける。 「正和、さん……」  仕置きの途中で意識を失ってしまうなんて、また怒られるだろうか。 「あ、気が付いた。……しみない?」  そう言って手首を撫でてくる。そこには縄の痕がくっきり残り、赤くなっていた。コクリと頷いて、後ろを振り返り体を正和さんの方へ向ける。 「ごめんなさい。勇樹に体触らせたり、送ってくれるって言ったのに、拓人と約束したり……怒らせて、ばかりで……ごめんなさい」 「反省したなら良いよ」 「でも俺、本当に正和さんじゃなきゃ――」  言葉の途中で抱き締められて、唇にキスされる。すぐに正和さんの舌が入ってきて口腔を優しくかき回し、舌を絡め取られて息が上がった。  彼の匂いと温もりに包まれてとても幸せな気持ちになる。 「もう怒ってないよ。よく耐えたね」  彼は微笑むと、優しく頭を撫でてくる。なんでか分からないけど、正和さんの機嫌はとても良いようだ。  お風呂を出て、リビングに行くと彼が昼食を用意してくれて、美味しいフレンチトーストを食べ終えた後はソファに座ってゆっくりする。薬は抜けきったようだが、体がだるくて頭がぼーっとする。 (っていうか、明日絶対噂になってる……)  朝の痴態を思い出して、顔がじわじわと熱くなるのを感じた。 「はぁ……」 「どうしたの?」  明日の学校が憂鬱で思わず溜め息をつくと、ソファ越しに後ろから抱き締められた。耳元で囁かれて、体がビクッと揺れる。 「……なんでもない」 「何でもなくないでしょ」 「……明日学校やだなって思っただけ」  正和さんは苦笑して俺の頭を撫でる。 「ごめんね。でも明日も午前中で授業終わりだよね?」 「そう、だけど……」 (そう言う問題じゃないし) 「じゃあ学校終わったらデートしようか」 「へ……?」 (でーと?)  頬を紅潮させて俯くと、正和さんに顎を掴まれて顔を上げさせられた。ソファの後ろで上から見てくるから顔の向きが逆さまだが、目があって更に恥ずかしくなってしまう。  顔が赤いのも、目が泳いでるのもきっと全部見られてる。 「俺とのデートは嫌?」  整った綺麗な顔が優しく微笑んで、俺の頬を撫でる。 「い、嫌では、ない」  胸がトクンと高鳴って、本当はとても嬉しいのに、素直じゃない俺は、ついつい可愛げのない事を言ってしまう。それでも正和さんは優しくキスをして、ソファの後ろからこちらに回ってくる。  隣に腰掛けて肩に手を回されると凄くドキドキした。

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