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第83話

「行きたい所ある?」  首を左右に軽く振ると正和さんはクスッと笑った。 「じゃあ俺が決めちゃうよ」  肩に回した手で髪をすいて、こめかみにそっとキスをする。 「明日は友達と行くの?」 「あ、えっと……ごめんなさいっ……でも後でメールで」 「責めてる訳じゃないよ。行かないなら送ってあげようと思っただけ」  拓人に連絡して明日からは一緒に登校するのをやめようと思ったが、正和さんは楽しそうに笑って俺の言葉を遮った。  何か裏があるんじゃないかと思うくらい正和さんが優しい。いったいどうしたと言うのだろう。 「帰りは迎えに行くからね」 「……うん」 「明日楽しみだね」  正和さんはニコニコしながら立ち上がると、「飲み物とってくる」と言ってキッチンへ行った。 (デート……どこに行くんだろ)  明日が楽しみで自然と口元が緩み、学校での噂なんてどうでも良くなった。  朝はいつもの交差点から拓人と一緒に学校へ行った。拓人は何事も無かったかのようにいつも通り接してくれて本当良かった。  ただ同じクラスの生徒とか、隣のクラスの生徒がチラチラとこっちを見てくるのは、自意識過剰……ではないはず。  教室に入ると早速、勇樹が駆け寄ってくる。仲は良いけど今は会いたくない。 「純の彼氏って何やってる人なの?」 (何って言われても……)  SMクラブ経営してるとか、以前はそこで客の相手もしてたらしいとか絶対言えない。 「……元、お医者さん?」 「え、医者? てか元って事は今は?」 「それは……よくわかんない。何かの経営してるとか言ってた」 「へーえ、凄いんだな!」  勇樹が次の質問をしようと口を開きかけた時、もう一人の会いたくない人物が来る。 「姫様おはよー」 「だから姫じゃないって!」  抱きつこうとしてくる笠原の胸を叩いて押し返すと、へらへら笑った。 「姫、噂になってるよ~。B組のお姫様可愛いだけじゃなくて、色気も凄くてドMだって」 「っ……」 (聞きたくなかった……てかB組のお姫様ってなんだ。男ばっかの学校だと頭がおかしくなるのか?) 「つーか、彼氏イケメン過ぎ! 十四も年上って言うから冴えないキモイおっさんだと思ったのに!」 「それな! それは俺も思った」  笠原の言葉に拓人も便乗した。 (拓人までひどい……)  キモイおっさんで首輪つけるような変態とか思ってたんだ。それ、手の施しようがない悪質な変態じゃん。  そんな事を思っていたら担任の先生が入ってきて、すぐにチャイムが鳴った。  今日は一時間目と二時間目がLHRなので、先生の話が終わったらそのまま文化祭の出し物などを決めるのだろう。

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