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第85話
三時間目は英語、四時間目は現文だった。苦手な科目がなかったから、今日はあっという間に授業が終わる。帰りのHRもすぐに済み、前の席の拓人がこちらを振り向いた。
「今日これからどっか行かねー?」
「あ、えっと、今日はちょっと……」
「あー、彼氏と?」
首を縦に振ると拓人は楽しそうに俺の肩を小突いてきた。
「このリア充め」
「……ごめん」
「じゃあ、また明日! ヤりすぎ注意~」
手を振って別れ際に冗談混じりで恥ずかしい事を言う。しばらくは彼氏ネタと始業式のエロネタで皆から揶揄われそうだ。
校門に行くと既に正和さんの車が停まっていた。助手席側に回って窓から覗き込むと、彼がにこりと笑みを浮かべたので、扉を開いて乗り込む。
「おかえり」
「た、ただいま」
優しく微笑んで言われたから、少しドキッとして頬を赤くした。シートベルトを締めると少し大きめの紙袋を渡される。
「何これ」
不思議に思って中を見ると、この間買ってもらった洋服が入っていた。
「制服でウロウロするのもあれだから、お店ついたらトイレで着替えられる?」
「……うん」
「じゃあ、とりあえずお昼ご飯食べに行こうか」
そう言って、ゆっくり車を発進させる。車に乗る時もそうだったが、生徒からの視線が気になる。
始業式の噂のせいなのか、それともピカピカの輸入車でイケメンが迎えに来てるせいなのかは分からないが、どちらにしても嫌だ。
「……正和さんのせいで、色気が凄くてめちゃめちゃえろいドMだって噂になってる」
「ごめんね」
正和さんは運転しながら、俺の手の甲に暖かくて大きな手を重ねてきて、包み込むように握ってこられたらドキドキしてしまう。
「Mじゃないし、エロくもないのに……」
ぼそりと呟けば、正和さんは眉をへにゃりとさせて困った顔をする。そうだね、とか慰めるような肯定の言葉が返ってくると思ったのに、これではまるで噂の通りだと言ってるようなものじゃないか。
(みんなしてひどい……)
「んー、エロいのもドMなのも俺限定だもんね」
「っ……」
(全然フォローになってないし。……俺はMじゃないのに)
しばらくして車が駐車場に停められる。店内に入るとそこは、ファミレスを少しお洒落にしたような雰囲気の所だった。
「何食べたい?」
そう言ってメニューをこちらに向けて机に置く。
「んー」
たくさんの種類があって色々見てたら、ハンバーグとオムライスのセットが美味しそうで、どちらにしようか悩む。
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