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第86話

「これにする」 「オムライス?」  コクリと頷くと正和さんは店員を呼んだ。 「オムライスのセットとオレンジジュースを二つずつ」 「かしこまりました」  店員は注文を繰り返し読み上げるとメニューを持って席を離れる。 「オレンジジュース頼んだの?」 「だってオレンジかココア以外はあまり飲まないでしょ」 (そうだけど……何で知ってるんだ、そんなこと)  初めて会った日もココアもらったな、なんて考えたら少しゾクッとしたので、考えるのはやめた。何で出会う前から詳しく知っていたのかは今度問い詰めよう。  料理が出てくるまでの間に着替えようと思って席を立つ。トイレの個室に入って鍵を掛け、紙袋からベージュのパンツ、ジャガード織のおしゃれな白シャツ、黒のジャケットを取り出した。  少し大人びた服で嬉しくなる。正和さんの事だから、また可愛いデザインの物だと思っていただけに尚更。  素早く着替えて制服を紙袋にしまうと、正和さんのいるテーブル席へ戻った。テーブルには既にオレンジジュースが二つ並んでいる。 「うん、似合ってる似合ってる」  正和さんが楽しそうにニコニコしているから、俺も口元が緩んだ。 「お待たせ致しました。オムライスセットです」  デミグラスソースのかかった美味しそうなオムライスとサラダが運ばれてきて、お腹が空いてくる。 「いただきまーす」  俺が元気に挨拶をすると、正和さんはクスッと笑った。 (美味しい~)  やっぱり美味しい物を食べてる時は幸せだ。 「……可愛い」 「なに?」  正和さんが何か言った気がして、オムライスを頬張りながら聞き返すと「何でもないよ」と返ってきた。 「美味しいね」 「そうだね。純が喜んでくれて良かった」  彼の言葉に顔が少しだけ熱くなる。 (なんかっ、なんかっ……! 凄くカップルみたい。いや、カップルなんだけど……健全な青春してる)  食事を終えて店を出ると、車に乗って再び移動する。先程と同じように、運転しながら片手はこちらに伸ばしてきて俺の手を握った。  胸がドキドキするのを誤魔化すように、正和さんに話しかける。 「……どこ行くの?」 「着いてからのお楽しみ」  正和さんはそう言って、車内に音楽をかける。  どこに行くんだろう。映画館とか、水族館とか、景色の綺麗な所とか?  デートなんてほとんどした事ないからそれくらいしか思いつかない。

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