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第87話
車を二十分ほど走らせると一軒の家に着く。家と言うよりはカフェのような外観だが、ここで何をするんだろう。
「ここは……?」
「んー、可愛い子たちが遊んでくれる所?」
(え、怪しい店?)
正和さんの後に続いて、恐る恐る店内へ足を踏み入れる。中はソファがいくつも置いてあって寛 げるような作りになっていた。
(こういう所ってデートで来るものなのかな?)
他の人がどんなデートをするのかは分からないけど、猫好きの正和さんなら良いのかもしれない。ニャーと擦りよってくる白い猫を撫でる。
出入り口付近のカウンターには猫の顔写真付きで名前が並んでいてキャバクラの猫版みたいだな、なんて思った。キャバクラ自体は行ったことがないけれど。
猫カフェには初めて来たけど、猫が好きな人ならたしかに癒されるんだろう。
正和さんが中へと歩いて行くので俺もついて行く。
「ふふ、可愛いなあ」
正和さんは近くにいた猫を撫でる。喉をゴロゴロ鳴らして擦りよる猫に、他の猫も集まってきた。
とても楽しそうな彼を見ていると、俺まで嬉しくなってくる。普段は落ち着いた雰囲気で、意地悪ばかりしてくるのに、驚くほど優しい顔をしていて、楽しそうに猫を愛でていた。
(こんな顔もするんだ……。意外)
正和さんの近くにあったソファに腰掛けて、ソファで寝ている猫をそっと撫でる。あったかくて、ちっちゃくて可愛い。
「ごめんね、食べ物は持ってないんだ」
猫に話し掛けながら笑っている彼を見て、俺にもそんな風にしてくれたら良いのに、なんて思った。別に猫に対して嫉妬とかはないけど、俺にはそんな顔見せた事ないから、ちょっと羨ましい。
「純もこっちおいでよ」
こちらを向くとは思っていなかったので、胸がドキッと跳ねた。俺の心中を察したかのように、優しい笑顔で手招きする。
ソファから降りて正和さんの隣に座ると、彼は縞模様の猫を俺の膝の上に乗せて、毛並みを整えるようにその猫の背中を撫でた。
「俺、猫が大好きなんだ」
「……うん」
(知ってる。本棚に猫の本いっぱいあったし)
「でも、純の事は優しくするだけじゃ足りないくらい愛してるんだよ。だからそんな顔しないで」
そう言って俺の頭を撫でる。優しくするだけじゃ足りないってどういうことだろう。それにそんな顔ってどんなだ、と顔を上げると、唇に軽くキスされて顔が真っ赤に染まる。
「っ……人がいるのに」
店員が近くにいて見られるかもしれないのに。恥ずかしくて正和さんの胸をそっと押し距離をとる。だが、彼はクスッと笑ってその手を掴み、指先にわざと音をたててキスをした。
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