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第89話
正和さんは通話を切ると、携帯をポケットにしまって俺の方を向いた。
「レストランはここから四十分くらい。そこの近くに俺のやってる店があるんだけど行く?」
(え……)
「み、店って、その……」
「うん、SMクラブだよ」
クスッと笑った彼は言葉を続ける。
「特に何しようとかじゃなくて、俺のやってる事に興味があるなら見に来ないかなって思って。嫌なら良いよ。どこかドライブに行こう」
正和さんは微笑んで「どうする?」と首を傾げる。
(興味は……ある)
正和さんがどんな仕事をしてるのかとか、正和さんの事は全部知りたい。
「……うん、行ってみたい」
俺が答えると正和さんはニッコリ笑って車を発進させる。そんなところ行った事ないから少し不安だけど、楽しみな気持ちの方が大きかった。
* * *
お店の外観はいたって普通。入り口の所にいかがわしい看板が置いてなかったら、そう言う店だとは気付かないだろう。
看板を見るとどうやら男専門らしい。そうだろうとは思っていたけど、改めて見ると少し緊張してしまう。厳ついお兄さんがたくさんいたらどうしよう。
正和さんに続いて店内に入る。SM専門店だからなのか、内装は全体的に黒で差し色に赤も使ってあって、少し怖い。
入ってすぐ脇にはカウンターがあり、その上にはファイルが二つ開いて置いてあった。ご主人様と書かれた一覧にはカッコ良い男性の写真が並んで入っており、隣のファイルには奴隷と書いてあって同じ様に写真が並んでいる。
「いらっしゃいま……あ、お疲れさまです」
「零夜いる?」
「二階にいますよ。呼びますか?」
「ありがとう、大丈夫」
受付の男性は正和さんと会話をした後こちらを見てくる。少し怖くなって正和さんの服の裾を掴んだ。
「部屋の準備させますか?」
「ううん、今日は見学だけ。俺の嫁さんだから宜しく」
「あ、了解です。純さんですね! 俺は受付の佐々木です。気軽に話しかけてくださいね」
「……よろしくお願いします」
(何で俺の名前……正和さんが話したのかな?)
「おいで」
服を掴んでいる手をそっと離されてそのまま握られた。店内を奥へと進みエレベーターで上に上がる。エレベーターを降りると、真っ直ぐ行き突き当たりを左に曲がって、角の部屋の扉を開けた。
部屋の中は白い壁に茶色のフローリングで、ソファと机が置いてあり、アパートの一室のような清潔感のある普通の部屋だった。
ソファに腰掛けてパソコンを操作する男性と目が合う。甘い雰囲気のイケメンで女性に人気がありそうな綺麗な顔をしている。
「ノックくらいしろよな。てかその子は? まさか中学生……ではないよね」
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