90 / 494

第90話

「高校生だよ」  険しい顔をする男に正和さんが楽しそうに笑って言うと、その男は頭を抱えて呆れた顔をした。 「おまっ……頼むからやめてくれよ。十八以上じゃないと困るって」 「ふふ、キャストじゃなくて俺の嫁さん」 「え、嫁? それなら……って、いや良くないだろ」  そう言ってソファから立ち上がると、俺の目の前まできて心配そうな顔をする。 「大丈夫? 無理やり変な事されてない? こいつに脅されてるの?」 「あ、えっと……今は大丈夫です」 「今は……?」  男は問い詰めるように正和さんのことを見た。 「零夜だって人のこと言えないじゃん。そんな事より紹介しに来たんだから挨拶くらいしてあげて」 (人のこと言えないって……?)  不思議に思っていると零夜と呼ばれた男は、ため息をついて自己紹介をした。 「俺は一条零夜(いちじょうれいや)。店の事は殆ど俺がやってる。宜しくね」 「相楽純です。宜しくお願いします」  ぺこりと頭を下げると零夜さんは優しく微笑んだ。 「じゃ、また。今週末には来るから」 「滅多に来ないし、ちゃんと仕事してくれよ……」 「零夜に好きなようにやらせてるんだから少しくらい休んだって良いでしょ」 「お前なあ……」  零夜さんはため息をついて呆れた顔をしている。 (でも正和さん、いつも家で仕事してるけどな……) 「行こう」と正和さんに手を引かれ、零夜さんに軽く会釈すると部屋を後にした。 「面白い部屋を見せてあげる」  そう言って隣の部屋の扉を開く。 「……病院?」 「そうだよ、病院をイメージして作られた部屋。基本的にはホテルでしてもらうんだけどね、特別なお客にはこういう部屋も用意してるの」  診察室のような部屋の机上には身体の構造が描かれた紙や模型、患者用のくるくる回る椅子。キャスター付きの台には様々な器具があり、診察用の簡易ベッドや、足を開かせるタイプの診察台まである。鼻をつくようなアルコールのにおいまでして、とてもリアルなセットだ。 「衣装もあるんだよ」  白衣と青の検査用ガウンを取り出して俺に見せると、ロッカーへ戻した。正和さんは俺と同じ目線になるように少し屈んで頬を撫でる。 「今度ここでそう言うプレイしようか」 「っ……」  恥ずかしくて赤面してしまう。だけど、正和さんとするならそう言うのも嫌じゃない。むしろ少し興味がある。 「他にも電車みたいな部屋とか、学校そっくりの部屋もあるんだ。吊したりできる部屋とか色々」 「玩具も見る?」なんて言う正和さんに、首を左右に振る。これ以上は刺激的過ぎて頭がパンクしそうだ。 「じゃあ、そこに座って」  そう言って指差したのは患者用の椅子で。いったい何をするつもりなんだろう。言われた通り椅子に腰掛けると、首に手をかけられる。  ビクッとしてドキドキしながら見上げれば、正和さんは優しい顔で微笑んだ。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!