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第91話
何をするのか不安に思っていたら首輪を外される。いつもはお風呂の時以外とってくれないのに、どうしたんだろう。
「良い物あげる」
正和さんはポケットから小さな箱のようなものを出すとテーブルに置いた。また変な玩具だったら……とドキドキしながら、彼が開けるのをじっと見つめると、箱の中のものがキラリと輝く。
「ネックレス?」
「可愛いでしょ。首輪より目立たないから良いかなって思って」
銀色をしたハート型のネックレスには小さな宝石が散りばめられてあり、裏には『Masakazu』と刻印されていた。それを俺の首につけると正和さんは満足そうにニッコリ笑う。
「外さないでね」
「……うん」
ハート型のネックレスなんて少し恥ずかしいけど、正和さんの嬉しそうな顔を見たらこれも良いかなって思った。それに首輪よりは全然良い。
「ありがとう」
正和さんは俺の頭をポンポンと撫でて額にキスをする。
「そろそろ行こうか」
部屋を出てエレベーターで下に降り、受付の佐々木さんに会釈して店を出た。駐車場へ行こうとしたら、手を握って反対方向へ引っ張られる。
「すぐそこだから歩いて行こう」
そう言って、二百メートル程先にある大きなビルを指差した。
「あの建物?」
「そうだよ」
正和さんは俺の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる。空はすっかり暗くなってしまったが、外灯やビル、看板、車などの灯りで辺りは明るい。街がキラキラ光っているせいか星はあまり見えなかった。
「……正和さんの誕生日っていつ?」
「んー、十一月二十六日だけど」
突然の質問だったからか、正和さんは首を傾げて不思議そうにしていた。
「そうなんだ」
(来月か……)
「何かしてくれるの?」
楽しそうにニコニコして顔を覗き込んでくる正和さんに顔が赤くなる。
「……別に、何も」
「えー、楽しみにしてるからね」
楽しみ、と言われても何をしたら良いかなんて分からない。
(正和さんの喜びそうな事って、変態なプレイくらいしか――)
「っ……」
(いや、ないない。何を考えてるんだ)
正和さんは何が面白かったのかクスッと笑って、ビルの自動ドアを通る。彼は迷うことなく右へ進み、三つ並んだエレベーターの所で、ボタンを押して下りてくるのを待った。
四階にいたエレベーターはすぐに下りてきて、チンッと言う音と共に扉が開いて人が降りる。正和さんが扉に手を添えて、俺の事を先に入れてくれると、その仕草に少しドキドキした。
扉を締めて最上階のボタンを押すとエレベーターはゆっくり上がる。二階までは壁があったが、途中からはガラス張りで外の景色がよく見えた。ぐんぐん上がっていき、車が小さくなって、建物の屋上が見えるようになる。
最上階に着くと真っ直ぐ進んで、突き当たりにそのレストランはあった。
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