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第92話

 正和さんが店員に話しかけ、店員はニッコリ微笑んで席に案内してくれる。随分奥まで進むなーって思っていたら奥の個室へ案内された。  中に入るとその人は椅子を引いてくれる。  窓側は一面ガラス張りで景色が良く見渡せて、キラキラ光る街がとても綺麗だ。こういう夜景は始めて見たから、スマホで何枚か写真を撮る。けれど、見たまんまを綺麗に撮ることはできなかった。  程なくしてポットに入った温かいジャスミン茶と前菜が運ばれてくる。ジャスミン茶はとても香りが良いし、前菜のエビとか肉団子とか凄く美味しい。 「今日のデートはどうだった?」 「……楽しかった」  お昼ご飯を一緒に食べて、猫カフェ行ったり、ボーリングしたり、水族館行ったり、正和さんの店に行って正和さんの関係者に会ったり、こうして夜景を見て中華料理を食べたり。  正和さんの事を色々聞けて、ネックレスも貰って。何より正和さんがとても優しかった。 「色んな正和さんを知ることができて嬉しかった」 「それは良かった」  正和さんは安心したように微笑んだ。  その後も美味しい料理が順番に運ばれてきて、他愛ない話をしながら食べていたら、デザートの杏仁豆腐とゴマ団子を食べる頃にはお腹いっぱいで無理して食べた。  店を出ると、どちらからともなく手を繋いで歩き出し、駐車場までそのまま向かう。繋いだ手があったかくて、胸がドキドキ高鳴った。  車に乗りと再び手を握られて、家に着くまでの十五分間はお互い無言のままで、心臓が早鐘を打っていたせいか手はしっとりと汗ばんだ。  玄関に入って扉を閉めて靴を脱ぐ。 「純」  家に入って靴を脱ぐと、後ろから抱き締められて耳元で名を呼ばれた。腰の辺りがゾクリと震える。 「ごめんね」 「なにが?」 「本当は我慢しようと思ってたんだけど……できそうもないや」  艶っぽい掠れた声で囁かれたら、耳がゾクゾクして脳が痺れたようにぼーっとしてくる。 「ベッド、行く?」  恥ずかしくて、俯きながらそう呟くのが精一杯だった。  後ろからそっと横抱きにされて、正和さんの部屋に連れて行かれる。優しくベッドの上に下ろされて、額に軽くキスされた。 「ほんとに良いの? 昨日も無理させちゃったし……今日も優しくできる自信ないよ」  いつもと違ってこんな時まで優しく気遣ってくれる正和さんに、胸が幸せでいっぱいになった。 「今日一日、正和さん優しくて……凄い嬉しかった」  顔を見るのが恥ずかしくて、俯いて呟くように話したが、思い切って顔を上げる。 「だから……正和さんの……好きに、して?」  正和さんの目を見て言ったら、ドキドキして顔が熱くなる。きっと頬は赤いし目は潤んでしまったかもしれない。

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