97 / 494

第97話

 今日から平常通りの授業で、午後も授業があるのかと思うと、午前の授業も長く感じられる。四時間目の数学がやっと終わって昼休みになると、拓人と下の購買へ向かった。 「五時間目、何の授業だっけ?」 「選択Bだよ」 「その次は?」 「ホームルーム……だったかな?」  階段を下りながら聞いてくる拓人に答えた。  この学校の理科の選択は、地学、物理、化学の中から二科目とる事になっている。俺と拓人は同じ科目を選択し、選択Aが化学、選択Bが地学だ。 「まじか~。地学室遠いからダル……あ、カレーパン売り切れじゃん」  拓人は目当てのパンが売り切れだったらしく、しばらくどれにするか悩んでソーセージパンを買っていた。俺は焼きそばパンとミルクプリンを購入し教室へ戻る。すると、俺達の席のすぐ隣に座って待っている笠原と勇樹がいた。  この二人はいつもお弁当を持参してるので、俺たちが買いに行く間、こうして待っててくれるのだ。 「この席で食べんの?」 「だって姫と拓人の席ここに並んでるし」  いつもは教室の真ん中辺りの机で食べていたから、拓人が首を傾げて訊ねると笠原が答えた。席替えして窓際になったので、これからは昼食もここで食べる事になるようだ。 「……あれ? 姫、ネックレスにしたの?」 「ほんとだ! 首輪外したの?」  笠原の言葉に勇樹が乗った。 (もうその話題はいいよ……)  二人の言葉には答えず、焼きそばパンにかぶりつく。 (うん、購買の焼きそばパンは安定の美味しさ) 「え~、無視~?」 「純チャンつれな~い」  二人のわざとらしい間延びした声にため息をついて、パンを口へ運んだ。 「あんまり言うなよ、嫌がってるだろ」 「だって姫の反応可愛いもん」 「イヤよイヤよもスキのうちーって言うし?」  拓人のおかげでこの話題は終わり、いつも通りくだらないテレビの話とかゲームの話に移る。  俺は一日十個しか販売されない貴重なミルクプリンを食べて幸せに浸った。  五時間目の授業は地学室でやるので、教科書とノート、筆記用具を持って少し早めに拓人と教室を出る。すると、再びあの話題になった。 「……彼氏とどこで知り合ったの?」 「え……」  突然の質問に固まってしまう。 (どこで……と言われましても……) 「あ、言いたくなかったら良いよ。純は可愛い女の子がタイプだったろ? だからちょっと気になっただけ」  拓人はそう言って、慌てて次の話題を探している。少し迷ったけど拓人になら話しても良いかなって思った。よく遊ぶからいつかは知るとだろうし、話しておいた方が後々相談とかもしやすいだろう。 「……皆に言わない?」 「おう」 「秋休み初日に突然家に来た」 「え、家に?」 「うん、借金返済してくれるって」  秋休みの出来事を話し始めたら、拓人が怪訝そうな顔になる。 「何それ大丈夫なの? ……まさか脅されてるとか?」 「いや、最初は監禁してきたけど」 「監禁!?」 「シッ、声大きい……!」  話してる途中に驚いたように大きな声をあげる拓人の口を、慌てて手で塞ぐと彼は「ごめん、ごめん」と謝って手を軽く合わせた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!