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第99話
「特別露出してるわけでもないのにね、何でだろう? 若い子の象徴だから?」
そう言いながら、俺の胸元に手を伸ばし、ネクタイの結び目に手を掛けてシュルっと解いた。
「さ、さあ……何でだろう。てか、俺着替えてくるね」
(いや、何だ。この流れ)
早く逃げないとやばい気がして席を立とうとするが、腰に抱きつかれてしまい動けなかった。
「えー、俺はもう少しこうしてたいな」
「っ……」
正和さんは仰向けから横向きになり、お腹に顔をくっつけてくる。吐く息が温かいし、すぐそこは股間の為、変に意識してしまう。
「ま、正和さんっ?」
「……あのね、純に一つお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
そう言う正和さんの顔は元気がないように見える。本当に何かあったんだろうか。
「お願いって……?」
「……薬を飲んで欲しいなって」
(は? ちょっと待って、昨日したばっかりなのにまたする気なの? っていうか改めて言う事?)
「やだよそんなの」
「そうだよね……」
嫌悪感丸出しの声音で言うと、落ち込んだように切なげなため息をついて、俺のお腹に深く顔を埋めた。
いつもと違って元気のない正和さんが少し気になる。いったいどうしたんだろう。こんなの、らしくない。
「こんな俺は嫌いになるよね」
「……嫌いにはならないけど」
「でも薬飲んでくれないんでしょ」
「だって明日も学校だし」
「……じゃあ明日なら良いの?」
そう言って顔を上げる正和さん。
(いや、確かに明日は金曜日だけど。何なのいったい)
「……お願い」
珍しく低姿勢にお願いしてくるものだから、何か良からぬことを企んでいるんじゃないかと勘ぐってしまう。
「じゅーん」
どさくさに紛れて股間に顔を擦り付けてくるし、きっとどう返答しても飲まないという選択肢はない気がする。
「~~っ、わかった。飲むよ、飲めば良いんでしょ」
「ほんとに?」
飲むと言った途端、正和さんは目をパーッと輝かせて、嬉々として確認してきた。この顔を見たら背中には冷や汗が流れる。
今更後悔しても遅いが、無事に一日を終えられる気がしない。明日が不安でいっぱいになった。
次の日、憂鬱な気持ちのまま学校へ行った。
帰ってからの事をぐるぐる考えていたら、あっという間にお昼休みになり、いつもの通り拓人と購買に行って、コロッケパンと苺ミルクを買う。
「どうしたの?」
「え? ……あ、まあ色々あって」
拓人の問いに一瞬何を言ってるのか分からなかったが、俺の雰囲気で何かがあったと悟ったのだろう。
「色々って? 彼氏?」
「うん、まあ……」
「喧嘩でもしたの?」
今の俺は喧嘩をした時のように暗い雰囲気なのだろうか。
「喧嘩って言うか、その……今日の帰宅後が怖くて、ですね」
「そんなに怒ってんの?」
色々考え事して怖くなったせいで俺は変な口調になったが、それは気に留めず拓人は心配そうに聞いてきた。
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