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第104話

「あ……」  勢いで部屋に来てしまったからスマホが入ってる鞄は正和さんの部屋に置きっぱなしだし、まだシャワーも浴びていない。  けれど、また戻るのも嫌だし、ウォシュレットで後処理だけでもしようとトイレの扉を開ける。この部屋にトイレがついていて良かった。  正和さんのものを洗い流すと、なんだかとても虚しくて悲しい気持ちになった。妊娠しないならそれはそれで安心だが、弄ばれた感じがして凄く泣きたくなる。  後処理を済ませてトイレから出ると、クローゼットから適当な服を取り出して着た。ベッドに転がろうとしたら、トントンと扉をノックする音が響く。  俺がここに居ることは明らかなのに、咄嗟に息を潜めて動きを止め、居留守のような対応をしてしまう。 「純、ごめんね。そんなに怒らないでよ……」 (そんなに……って、こっちがどれだけ傷ついたか分かってないのかな) 「じゅーん……ねえ、ここ開けて? 拗ねてるの? ……夕飯はどうする?」 「……拗ねてないし、夕飯いらない。あと顔も見たくない」 「――――」 「――――」  しばらく沈黙が続いて、正和さんも諦めてどこか行ったようだ。ベッドに横になって、イライラした気持ちを落ち着かせるように一息つく。 「……ほんと、サイテー」  仰向けでボーッと天井を見つめていたら、ガチャガチャっと扉の鍵が開く音がする。ビクッとして掛け布団を握り締めると、ガンガンと扉がテーブルに当たった。地味に怖い。  やはりテーブルを移動しておくのは正解だった。何度か扉を開けようとしたが、すぐに諦めたようだ。 (てか、俺にはプライバシー全くないのな……)  しばらくベッドの上でゴロゴロして、うつらうつら寝たり起きたりを繰り返していたら、あっという間に二時間が過ぎた。  もともとたくさん寝るのが好きな為、何もしないでベッドにいるのも苦じゃない。 (喉かわいた……)  しかし、ただでさえ情事の後は喉が渇くのに、こうやって眠くなって体温が上がると口内は張り付いたようにパサパサだ。何か飲み物が欲しいが正和さんには会いたくない。  どうしようか悩んだけど、ベッドから降りて立ち上がった。極力、音を立てないようにテーブルをずらして扉との間に隙間をあける。数センチだけ開けて確認しようとそっとドアノブに手をかけると、扉の前には蓋付きのトレイが置いてあった。  給食とかで使われそうな大きさの四角いトレイ。蓋の上にはスマホが乗っており、それを重りにするように紙が置いてある。  その横にはミネラルウォーターのペットボトルが二本あった。

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