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第106話
「純、無視しないで……本当にごめんね。妊娠してくれたら嬉しいなって気持ちは本当だったんだよ」
「――――」
「許して? ……どうしたら機嫌なおしてくれる?」
正和さんは困った顔をして俺の顔を覗き込んだ。俺も無視するのに耐えかねて口を開く。
「……お仕置き」
「ん……?」
ふと思いついた事を呟くように言えば、正和さんは不思議そうな顔をした。
「正和さんしばらくえっち禁止」
「――――」
「俺に触るのも駄目」
だが、正和さんに罰を言い渡すと、ぬけぬけとふざけた事を言ってくれる。
「純の方が耐えられないんじゃない?」
「……そうかもね」
(この人本当反省してないな……)
短く返し、冷めた目で正和さんを見ると慌てた様子で謝ってくる。
「あ、違っ……ごめん、純。ごめんね」
「――――」
「触るの駄目って全く……? 抱きしめるのもキスもだめ?」
顔を近づけて聞いてくる正和さんに恥ずかしくなって横を向く。だが、俺に触れてくる事はなくて、いつもと違った妙な距離感の彼が少し面白い。
「……変な触り方じゃなければ良いよ」
「変なって?」
「そんなの自分で考えて。俺は誠意の感じられる態度が見たいです。……嘘ついた上にレイプされて……どれだけ酷い事したか分かってんの?」
頬を膨らませて正和さんを睨むように見たら、勢い良く抱き締められる。
「純~! ごめんね、本当にごめんね。……はぁ、凄い可愛い」
「っ……」
「もうしないとは言えないけど、本当にごめんね。愛してるよ」
(また何かするつもりなのか……)
そう思ったけど、正和さんが何かしない訳がないから素直に言うのは偉い。抱き締めてくる正和さんの頭を撫でると、嬉しそうにふわりと笑った。その顔を見ると胸がドキッと高鳴る。
まだ許した訳じゃないけど、俺だって正和さんと仲良くしたい。
「……でもしばらくってどれくらい?」
(どれくらいって言われても……)
「心の傷が癒えるまで?」
冗談混じりに笑いながら言うと、彼は少し考えるような素振りを見せる。そして、抱き締める腕の強さを一段と強めてギュッとしてきた。
「じゃあ、俺が癒してあげる」
「……正和さんに癒し要素ないし」
「俺の愛で癒えるでしょ?」
いつものように自信たっぷりの笑みを浮かべる正和さんを見ると、嬉しい半面もう少し無視してても良かったかな、なんて思った。
(正和さんの愛なんて怖いだけだ……)
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