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第107話

「朝ごはん何食べる?」 「んー、正和さんは?」 「もう食べちゃった」 「……じゃあ、いいや」  そんなにお腹空いてないし、一人で食べるのはなんか嫌だ。そのまま二人でリビングに行ってソファに座る。特にする事もないので、ボーッとしながら正和さんの肩に寄りかかってみた。 「あ、月曜から帰り少し遅くなるから」 「何で?」 「文化祭の準備とかしなきゃならなくて」 「あー、去年はメイド服着てて可愛かったもんなぁ」 (へ……?)  彼は、何かを思い出して楽しそうにしているが、去年のその頃はまだ正和さんと知り合っていない。 「何で知って……」 「だって文化祭行ったし。あ、写真もあるよ」 (写真? ……俺の? 文化祭の?) 「見る? 部屋にあるよ」  そう言うと立ち上がって歩き出したから、俺もその後ろをついていく。正和さんの部屋に行って待っていると、彼はクローゼットから紙袋を持ってきた。  その中には写真屋さんの封筒がたくさん入っている。それぞれの封筒にはぎっしり写真が入っているのだろう。  正和さんは「これかなー」なんて言いながら、一つの封筒を取り上げて、その中から数十枚の写真の束を取り出す。  しかし、彼は軽く目を見開いたまま表情が一瞬固まった。時間にすれば一秒にも満たないくらいのほんの一瞬。そして、取り出しかけた写真をすぐに封筒へ戻す。 「正和さん……?」 「あー、これじゃないみたい」  あはは、なんて乾いた笑みを浮かべながら言う正和さん。 (……怪しい) 「見せて」 「見なくて良いよ」 「……浮気?」 「っ……そんなわけないでしょ」  じーっと正和さんの顔を見つめれば、彼は俺から顔を逸らして、焦った表情で何かを考えている。穴があきそうなくらい顔を見つめると、正和さんは観念したように両手の平をこちらに向けて肩の高さまであげた。 「あー、わかった……見たいなら見なよ」  俺に先ほどの封筒を手渡してくれる。 (本当に浮気だったりは、ない……よね?)  ドキドキする胸を落ち着けるように喉をゴクリと鳴らして、恐る恐る封筒から写真を取り出すと、それはよく知る光景だった。 (これ、俺の家……)  次の写真をめくるとそれは下校中の俺の姿。着替え中の姿を窓の外から写したもの、学校で体操着を着て走っている所、更衣室で水着に着替える所……など。いずれも俺の姿が写っていた。 「何これ」 「――――」 「もしかして、ストーカーって正和さんだったの?」 「……だって純が可愛いから」 (そんなに俺の事好きなんて……嬉しい! とか思ったりしないよ? 普通にキモイし怖い。何だこの変態) 「あ、でも純の家までついて行ったのは秋休みのちょっと前だよ。それまでは行ってないから」 「へ、へえ……」  あまり意味をなさない弁解をする正和さん。ちょっと引く。いや、かなり引く。 「いつから……?」 「入学式可愛い子がいるなーって思って、体育祭の時から、写真を……」  体育祭は五月だ。という事は一年半も前から俺のストーカーだったと言うことになる。俺が誰かにストーカーされていると気がついたのは正和さんと出会う一週間くらい前。きっとその頃から家までついてくるようになったのだろう。  背筋がぞっとして鳥肌が立った。そうだとすれば俺の好きな物を知っていたのも納得がいく。

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