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第111話

「……もう良いよ」  上半身を捻って正和さんの方を向くと俺の上から退いた。そのまま起き上がって、今度は正和さんのことをソファに寝かす。  俯せに倒したら、彼は咄嗟に手をついて上半身だけ上げた状態でこちらを見てきた。 「っ……純?」 「俺もやってあげる」  起き上がろうとした正和さんの上に跨がって、先程してもらったのと同じようにマッサージをする。そうしたら正和さんは頬を少し赤くして、組んだ腕に頭を乗せて大人しくなった。 「気持ちい?」 「……良すぎ」 「贅沢だ」とか何とか言いながら気持ちよさそうに眉を(ひそ)めて、たまに息を詰める正和さん。普段はあまり見ることのない表情に、少し悪戯心が湧いてくる。  彼のシャツをめくって直に背中に触れる。ちょっと厭らしい手つきで撫でると正和さんはビクッと反応した。 「じゅ、じゅんっ?」  いつもは澄ました顔して余裕たっぷりな正和さんの顔が、ほんのり赤く染まって、だいぶ動揺している。このまま悪戯を続けたら正和さんでも真っ赤になるのかな、なんて思ったら口元が緩んだ。  それに今はお仕置き中なので俺に手を出してこれない。いつも苛められてる分、生殺しにしてあげようじゃないか。  なんだかドッキリをしかける時みたいなワクワク感がある。 「どうしたの? 気持ちくない?」  普段通りの声音を装って、肌を撫でるようにマッサージを続ける。 「い、いや……気持ち良いけど」  背中から腰を揉むように撫でて、お尻の方までいくと正和さんが息を詰める。 「っ、純……」  いつもと違った正和さんが面白くて、お尻を執拗に揉んだら手首を掴まれた。そのまま視界が反転して彼の位置と入れ替わる。 「正和さん……?」  視界には、天井を背景に正和さんの顔が映った。興奮した肉食獣のような目で捉えられて、背筋がゾクリと震える。掴まれた左手首が痛い。そこにギリギリと力を込められて、正和さが相当興奮しているのだと悟った。 「……頼むから、煽らないで。これでも我慢してるんだ」  彼は掠れた低い声でそう言うと、俺の手首を離し、ソファから降りてトイレの方へ向かった。  不覚にもそんな正和さんにちょっとドキッとしてしまった。あんなに必死な顔でお願いしてくるのにも驚くし、あそこまで欲情していて俺に手を出さないというのもなかなか新鮮だ。 「夕飯何食べたい?」  戻ってきた正和さんはスッキリした顔をしており、いつもの余裕な表情を取り戻していて、少し残念だった。だが、言い付け通り、俺に手を出してこなかったので、また明日か明後日にでも煽ってみようかな、と悪戯心に火がついた。  俺が正和さんにされる意地悪と比べたら可愛いものだし、ちょっとくらい悶々として我慢させるくらい良いだろう。

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