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第130話
リモコンキーで鍵をあけ、扉を開ける。扉を閉めて靴を脱ぐと正和さんが玄関まで来た。
「おかえり」
「ただいま」
正和さんは俺に近寄ると顔を歪め、険しい顔をして低い声音で俺の名を呼ぶ。
「……純」
「な、何?」
俺の事を抱き締めて、首や髪の毛のにおいを嗅ぐ正和さん。彼の胸を押して体を離すと、彼は顔を顰めて冷たい目を向けた。
「煙草くさい。誰といたの?」
「拓人、だけど……」
メールでも伝えたのに何を言ってるんだろう。不思議に思っていると、また訳の分からない事を言う。
「へえ……嘘つくんだ?」
「嘘じゃ……! あっ、でも、買い出しの後ゲーセンも寄ったからそれで――」
「ふーん?」
「本当だよ!」
紙袋を床に置き、鞄の中からプリクラを取り出す。正和さんに渡すと幾分か表情が和らいだが、まだ怖い。
「俺とも撮った事ないのに……」
「へ?」
「それに俺に行く場所隠して勝手に行くなんて……悪い子」
正和さんは少し怒った顔で俺の手首を掴み、そのまま歩き出そうとしたので慌てて謝る。
「ご、ごめん。でも買い物終わって、今から行こうってなって……電話した時は行くつもりなくて、隠してたわけじゃ……」
「へえ?」
「ごめんなさいっ。今度からちゃんと報告するから……、だから、今回は……許して?」
恐る恐る正和さんの顔を見上げると、不機嫌な顔をして俺の唇を撫でる。
「……じゃあキスして」
「え……?」
「純からしてくれるなら今回は許してあげる」
そう言って正和さんは目を閉じた。
ドキドキする胸を押さえて深呼吸する。背伸びをして、背の高い正和さんの首に腕を回し、顔を引き寄せて、彼の唇にそっと自分のそれを押し当てる。気持ち長めにキスをして唇を離すと正和さんはニヤリと笑った。
「一瞬だけのキスならイジメようと思ってたのに。残念」
「っ……」
「お風呂入っておいで」
未だに眉を顰めて不機嫌な顔をしているが、頭を優しく撫でてくれる。
「うん。……これ明日持ってくからここ置いといても良い?」
紙袋を指差して聞くと正和さんは頷いて、リビングの方へ行った。俺は部屋に戻って部屋着を取り出し、それを持って浴室に向かう。
お風呂に入った後、リビングへ行くと、テーブルには既に料理が並べられていた。きっとドライヤーの音を聞いて用意を始めてくれたのだろう。
正和さんと向かい合って席に着く。
「いただきます」と二人で挨拶をして美味しそうな肉団子から手をつけた。やっぱり正和さんの作るご飯は美味しい。
ただ、いつもと違って、正和さんは俺のことを見ずに無言で静かに食べている。
「怒ってる……?」
「……怒ってないよ」
返された言葉も優しい言い方だが、声音が冷たく感じる。
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