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第132話
驚いて音のした方を振り向くと、扉は開いていて一人の女性が立っているのが目に映った。
「あ、彰子 さんっ?」
正和は心底驚いた様子でその女性の名を呼ぶ。
「……え」
(……誰?)
『彰子さん』と呼ばれた女性に全身を見られて、顔にじわじわと熱が集まった。全裸だし、中心は正和さんに弄られて上を向いている。
恥ずかしくてシーツを握り締めると、その女性は目を細めてクスッと笑った。
「……とりあえず、話があるから早くいかせてあげなさい」
そう言って、彼女は扉を閉めると立ち去った。
(何、何、何? 誰?)
俺の頭の中は混乱して、ぐるぐる目が回った。そのせいか中心はあっという間に小さく萎む。
「さっきの人、誰?」
「……俺の母親?」
「え……え? お母様?」
(え、なんで疑問形?)
状況を飲み込めず呆然としていると、先走りをタオルで拭かれ、雑に頭からシャツを被せてくる。
「とりあえず服着て」
混乱しながら服を着て、正和さんに手を引かれ、リビングまで歩いていく。リビングに入ると、椅子に座ってお茶を飲んでいた彰子さんが微笑んだ。
「久しぶり」
「……ああ」
「付き合ってるの?」
俺の方を見て聞いてくる彰子さんにオロオロするが、どう答えるべきか悩むよりも先に正和さんが答えた。
「そうだけど」
「正和、ちょっと席を外してくれる?」
「え、いや、純に余計なこと――」
「正和」
「……はい」
ニコニコ微笑みながら正和さんの言葉を遮り、有無を言わせぬ口調で名を呼ぶ彰子さん。
(正和さんと似てる……)
楽しそうにニヤッと笑うところとか、すぐに目を細める所とか、そっくり。顔立ちもどことなく正和さんに似ているし、とても美人だ。
正和さんが渋々といった様子でリビングから出てくと、椅子に腰掛けるよう促される。彰子さんと向かい合って座ると、緊張して体が強張った。こういう時は何を話したら良いのだろう。
困ってテーブルの上の花を見つめていると彰子さんが口を開く。
「男同士でも気持ちいいの?」
「あ、え、何がですか?」
「セックスよ」
「えっ、と……はい、まあ……っ」
カァァと効果音がつきそうなくらい顔が赤くなっているのがわかる。頬が火照って耳まで熱い。
だが、彰子さんは正和さんによく似た表情で厳しい顔をすると、少し低めの声音で話を始めた。
「で、正和とはいつ別れるつもりなのかしら?」
「っ……」
予想外の言葉に心臓がドキッと跳ね上がり息が詰まる。
「もうすぐ結婚だってしなきゃならないし、いつまでも遊んでるわけにはいかないのよ」
(けっこん……)
諭すような口調で話す彰子さんに、頭の中が真っ白になり胸がズキズキ痛む。寒気がして全身に鳥肌も立った。
「俺、は……別れるつもり、ありません」
震える声で、だけどはっきりとした口調で言う。痛む胸をぎゅっと押さえると、彰子さんは目をスーッと細めた。
「そう。でもあなたじゃ子供を作ることもできないでしょう」
「っ……」
「そうよね?
張り付いた喉を整えるように唾液を飲み込む。
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