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第133話
動揺はしているが、正和さんと別れるなんて事は微塵も考えていない。正和さんから言われればまた違うかもしれないが、母親とは言え第三者だ。
冷たくなった指先でズボンをぎゅっと掴み、震える声で告げる。
「たしかに、子供もできないし、結婚もできないけど……」
「けど何? 跡取りが産めないなら貴方に付き合う資格は――」
「でもっ、正和さんを絶対幸せにします!」
つい立ち上がって、彰子さんの言葉を遮るように勢いよく言ったらクスッと笑われた。自分の言った事に少し恥ずかしくなって、へなへなとゆっくり座る。
だが、言ったことは後悔していない。自分の本当の気持ちだ。
「でもあなた、まだ高校生でしょう? 困るのよねぇ、そういうの」
「っ……でも、最初に手を出してきたのは正和さんで」
「ふーん? 息子が悪いと言いたいの?」
「違っ……そういう、わけじゃ……」
そんな事が言いたい訳じゃない。ただ単純に正和さんが好きだから離れたくないだけ。
胸がズキズキするし、目の奥が熱い。このまま逃げ出してしまいたい衝動に駆られるが、グッとこらえて謝まる。
「ごめん、なさい。正和さんが悪い訳じゃ……俺、俺っ」
瞳に溜まった涙が零れないようこらえたら、息が詰まる。彰子さんは何も言わなくて、細めた冷たい目で俺のことを見る。
その表情とこの場の空気に泣くのをこらえながら静かに呼吸をすると、彰子さんは一際大きな声を出して正和さんを呼んだ。
「正和、入ってきてもいいわよ」
正和さんがリビングに戻ってくると、俺の顔を見て軽くため息をついた。
「純?」
目元の涙を親指で拭ってくれて、優しく頭を撫でられた。それだけでとても安心して、胸がじんわり温かくなる。
泣きたくなんかないのに瞳からは涙がポロポロと零れ落ちて、背中をさすられて宥められるが、心臓は相変わらずズキズキ痛んで息が苦しい。
「純、何言われたの?」
「――――」
「彰子さんの言うこと、真に受けなくて良いからね?」
俺の顔を正面から覗き込んで、それぞれの手を包むように握られる。
「……ごめん、なさい」
「何で謝るの」
「うっ……ひっく、ぅぅ」
彰子さんの言う通り、跡取りなんて作れないし、男同士でしかも年が離れてて高校生なんて、堂々とつき合う事もできない。
涙をボロボロ零して泣いていたら、正和さんが大きくため息をついたので、俺はドキっとして思わず俯いてしまう。
そうしたら、楽しそうに笑う彰子さんの軽快な声が響いた。
「もっと早く紹介しなさいよ~」
「これだから嫌だったんだ。もう少し落ち着いてからにしようと思ってたのに」
「ふふ、この子気に入ったわ。こんな可愛い子見つけるなんてやるじゃない。表情がいちいち可愛いのよ~」
「そんなの知ってる」
正和さんに抱き上げられたかと思ったら、座った彼の膝の上に乗せられて、ぎゅっと抱き締められた。
「泣かないで。ね? 大丈夫だから」
優しく頬にキスを落として、何度も「泣き止んで」と言ってくる。
しかし、彰子さんが言った『気に入った』とはどういう意味なのだろう。状況がいまいち理解できない。
「……純に何言ったわけ?」
少しイラついた口調の正和さんの低い声が、頭のすぐ後ろから聞こえて、体をビクッと震わせる。
「あら、結婚も子供もできないんだから別れなさいって。……ふふ、この子見てると、昔の義行 さんを思い出すわね」
(義行さん?)
疑問に思っていると、正和さんが義行は自分の父だと教えてくれる。彰子さんはクスッと笑ってお茶をすすると、俺の方を見て微笑んだ。
「さっきのは軽い冗談よ。正和と仲良くしてあげてちょうだいね」
(冗談? ……どこまでが?)
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