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第146話
はっ、と目が覚めて慌てて時計を見る。
時刻は、十一時五十二分。完全に寝過ごしてしまい遅刻確定だ。
「最悪……」
正和さんは何で起こしてくれなかったんだろう。今から学校へ行ったとしても午後は文化祭の準備だ。その為だけに学校へ行きたくないというのもあるし、寝坊して午後から出るとか恥ずかしい。
大きなため息をついて、ベッドから抜け出す。
今朝よりは腰の痛みもひいていて、難なく立ち上がる事ができた。部屋の扉を開けると美味しそうな匂いがして、お腹がキュルルと音を立てる。
リビングに入ると、テーブルに料理を並べている正和さんがこちらに気づいてふわりと笑った。
「今起こしに行こうと思ってたんだ。お腹空いたでしょ」
「……何でもっと前に起こしにきてくれなかったの」
唇を尖らせて咎めるように言うと、何がおかしいのか正和さんはクスッと笑う。
「だって起きたとしても腰が痛くて歩けなかったでしょ?」
「それは正和さんのせいで――」
「そうだよ、俺のせい。だからゆっくり休んでもらおうと思って。学校にも休むって電話しといたよ」
正和さんは俺の言葉を遮るように言って、自分が悪いと言う。昨夜は正和さんだけのせいではないし、今日の寝坊だって自分のせいなのに、そんな風に言われてしまったらどういう顔をしたら良いんだろう。
「お腹空いたでしょ? ご飯食べよう」
「……うん」
オムレツ、ミートボール、かぼちゃのコロッケ、ブロッコリーにプチトマトとお弁当のようなメニューに思わず笑みが零れる。
「正和さんが作ったの?」
「そうだよ。ミートボールもコロッケも愛情たっぷり入れて丸めたから美味しいと思うよ」
「ふーん」
愛情たっぷりとか何でそんな恥ずかしい事が平気で言えるんだろう、この人は。
「いただきます」
一口サイズのミートボールを箸で口に運ぶ。甘じょっぱい絶妙な味付けのタレが美味しい。
小学生の頃、母もミートボールをお弁当によく入れてくれていた。
(……懐かしいな)
「……美味しくなかった?」
突然、正面に座る正和さんが顔を覗きこむようにして聞いてきたので顔を上げる。
「え、美味しいよ? 何で?」
不思議に思って聞き返すと、正和さんは安心したように微笑んだ。
「箸止まってたから、好きじゃなかったかなって」
「あー、懐かしいなって思って……昔、お母さんがよくお弁当にいれてくれてたから。手作りではなかったけど」
そう言うと彼は何故か難しい顔をして黙ってしまう。何か気に障ることでも言っただろうか。
「ごめん……親の話なんてして」
「何で謝るの? そうだ。純の親にはなれないけど、次からお弁当作ってあげようか」
正和さんはさっきの表情とは一変して、明るくニコニコしながら提案してくる。もしかして、俺の両親がどこかへ行ってしまっていないから、気遣ってくれてるのだろうか。
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