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第147話

「そう言えばいつも学校の購買だよね」なんて言いながら楽しそうにお弁当の献立を考える。 「いいよ! 朝からお弁当作るとか大変だと思うし……」 「大丈夫だよ」 「でも、購買で十分だし! それに作るなら自分で――」 「じゅーん。素直に甘えなさい。それとも俺が作るご飯は嫌い?」  正和さんは俺の言葉に被せるように名を呼んで、諭すように言った。 「そんなこと! でも、そんな気遣わなくても……」 「俺がやりたいから言ってるの。大好きな夫からのお弁当嬉しいでしょ?」 (だいすきな、おっと……?)  顔がじわじわと熱くなり、鏡を見なくても赤くなっているのが分かる。だから、何でこの人は……こういう恥ずかしい事をさらっと言うんだ。 「かーわい」  顔を隠すように下を向き、ご飯を口に詰め込む。慌てて食べたから少し喉に引っかかる感じがしたが、ここでそんな表情をしたら揶揄われるに決まってるから気にしない。そんな俺を見て、楽しそうに微笑む正和さんには気付かずに、オムレツを箸で切る。  正和さんが作ってくれるのを持って行くのは、少し恥ずかしい。だけど、とても嬉しくて頬が緩んだ。 「純、おいで」 「何で」  食事を終えて部屋に戻ろうとしたら呼び止められた。ソファに座り、ニヤニヤしている正和さんに近寄りたくない。 「良いから」 「――――」  手招きする正和さんの前まで渋々行くと、膝の上をポンポンと叩く。そこに座れという事なのだろうか……。部屋に戻ろうと体の向きをくるっと変えると手首を掴まれた。 「じゅーん」 「……なに」 「好きだよ」 「っ……」  そのまま手首を引かれて、正和さんの腕の中にすっぽりおさまり膝の上に乗せられる。頬にチュッと口付けられて、頭を優しく撫でられると少し気持ち良い。 「どうしたの?」 「スキンシップ?」 「はあ……」 「たまには良いでしょ。こうして純を愛でるのも」  そう言って俺の喉や髪を撫でる。 (俺は猫か……)  抱き寄せられて、正和さんの胸に右耳がぴったりとくっついた。ドク、ドク、と脈打つ音にこちらまでドキドキしてくる。 「誕生日プレゼントの約束、覚えてる?」  正和さんの問いに瞬時に顔が赤く染まる。 (それって、あのプレイ……) 「え、えすえむ……」 「うん。俺の誕生日、次の水曜でしょ? 次の日学校だと辛いだろうから来週の金曜が良いな」  学校に行くのも辛いくらいハードな事をするんだろうか。それとも初めてだから気を遣ってくれてるんだろうか。どちらにしても怖い。  そんな様子に気がついたのか優しく手を握ってくる。腰に腕を回しながら包み込むように手を重ねられると、少し胸がドキドキして頬が熱くなった。  正和さんは耳元でクスッと笑いを漏らすと、おどけたような口調で言う。 「期待を裏切るようで悪いけど、初めての子にそんなハードな事はしないよ?」 「き、期待なんかしてない!」 「可愛いなあ……。心配しなくても純には素質があるし、俺にはテクニックがあるし大丈夫」 (素質ってなんだ……俺はMじゃないぞ。……Sでもないけど)  そんな事を考えていたら頭上から声をかけられた。抱き締められているせいか、声の振動まで響いてくる。 「明日は何時に出るの?」 「んー、いつも通り。帰りは受付終わったら自由だって」 「一時過ぎには帰れるの?」 「ん。だけど他の所も少し回ると思う」  明日は文化祭。金曜日は学校内だけで行い、土曜日は一般公開となっている。なので明後日の受付に比べたらそんなに大変ではないだろう。 「何時に帰ってくる?」 「えー、何時って言われても……」 「だいたいで良いよ」 「……四時くらい?」  文化祭を楽しみたいから本当は六時と言いたいが、そうしたら正和さんの機嫌が悪くなりそうな気がしたので少し早めに言った。 「良かった」 「何で?」 「明日の夜仕事で七時くらいに一回出なきゃならないんだ。その前に一緒に夕飯食べたいし」  そう言ってにっこり笑い、俺の頭を撫でた。嬉しそうな正和さんを見ているとこちらまで嬉しくなってくる。  こういう些細な事が最近凄く幸せに感じるようになったのも彼のおかげなんだろうか。

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