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第153話

「コスプレ。並ばないでできるスタッフの特権」  そう言って楽しそうに笑う。 「俺は――」 「せっかくだから、やらせてもらいなよ。それって俺も大丈夫?」  断ろうとしたら、すかさず正和さんが言葉を遮り、ニコニコと優しい笑みを浮かべて長谷川に尋ねた。 「あ、全然大丈夫ですよー。でも料金は普通にかかります」 「じゃあ二人分」  そう言って千円分の券を渡し、手を引かれる。 「ちょっと……っ」  簡易仕切りとカーテンで作られた着替えスペースは三カ所。その手前に衣装がかかったハンガーラックが置いてある。  周りを気にせず選べるように、という配慮から仕切りがあるので、外からは見えづらいようになっていた。  俺たちの他に女子高生二人が衣装を選んでいて、選びながらチラチラと正和さんの事を見ている。超イケメン、とか小声で話しながら二人はアニメキャラの女の子の衣装を手に取ると、カーテンを捲り中へ入って行った。 「これとか良いんじゃないの?」  そう言って正和さんが掴んだのは学校の制服風のコスプレ。それは膝上丈のスカートにブレザー、白のブラウス、リボン、紺のソックスといった女子用のもの。 「は? やだよ! 何で女装なんか……」 「じゅーん。自分で着れないなら俺が着せてあげようか?」  ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべる正和さん。その表情に背筋が固まる。 「何で俺ばっかり……」 「俺も着るよ」 「え……?」 (正和さんがコスプレ……?)  正和さんもコスプレするなら、それは少し見てみたい。 「……分かった。着替えてくる」  去年は二日連続メイド服だったんだ。それに比べたらほんの一瞬のこと。大した事ない。  着替え室に入ると先程の女子一人が隣の着替え室から出てくる所だった。カーテンを閉めるとズボンに手を掛け、ホックを外しファスナーを下ろす。  下着以外の服を全て脱ぎ、ブラウスを着てスカートをはく。靴下もはいて、リボンを付け、ブレザーを羽織るが、スカートが短い。パンツが出そうな気がして裾を引っ張ってみるが、当然スカートは伸びなかった。  脱いだ衣服を籠に入れ、そーっと覗き見るようにカーテンを開けて外に出ると、籠を指定の棚に置く。  正和さんは既に着替えていて、ハンガーラックの前に立っていた。だが、その姿はいつもの正和さんと大して変わらない。 「その格好……」 「教師のコスプレ」 「……ずるい」  シャツにスラックス、ネクタイといったどこにでもいそうな大人の格好。いつもの正和さんと違うのは生地が少し安っぽいということくらいだ。

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