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第165話

 かけられたのはおそらく媚薬だろうか。シャツを着ていた事で怒られるなんて理不尽だ。襲われるのを回避しようとしただけで、何故こんな事をされなきゃならないのだろう。  だが、あのまま何かされると思ったのに、何もされなかった。正和さんの考えている事がよく分からない。 「ご飯食べる?」  優しい顔でニッコリ微笑んで聞いてくる彼は、先程の事がなかったかのようにいつも通りの雰囲気だ。 「……うん」 「じゃあ作ってくるから適当に来て」  額にチュッとキスを落とし部屋を出て行った。ベッドに転がったまま伸びをすると眠くはないのに欠伸が出る。ゆっくり起き上がってベッドから下り、部屋を出ると甘くて美味しそうな匂いが鼻を掠めた。  リビングへ行くと、大好きな苺が乗ったフレンチトーストの皿がテーブルの上に置かれて口角が緩む。小さめのサラダとウインナー、ミネストローネスープまで用意されていて、手際の良さに感心した。  どうしたらこんな短時間で用意できるんだろう。 「何飲む?」 「んー、スープあるからいいや」  椅子に座って苺を眺めていると、コーヒーを持った正和さんが目の前に座る。彼がカップを置いたかと思ったら、フォークで苺を刺して俺の皿に乗せた。 「俺のもあげる」 「いいの……?」 「純が可愛いから特別」 「え……あ、ありがとう」  冗談めかした言い方をする正和さんに少し動揺すると、彼はクスリと笑って食前の挨拶をし食べ始める。 「いただきます」  ふわふわのフレンチトーストは甘くてとっても美味しかった。  体に異変を感じたのは、ちょうど食事を終えた頃。皿を片付けようと立ち上がったら、服が胸に擦れただけなのに電気が走ったようにビリビリした。  心配そうに覗き込んでくる正和さんに、大丈夫と言って、皿をキッチンへ慎重に運ぶ。乳首も後ろもむず痒いような変な感じだ。 「ちょっと部屋で横になってるね」  そう言って、正和さんの部屋に戻ってベッドに横になり、掛け布団に潜るとすぐに正和さんも来た。だが、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべているので視線を逸らす。 「じゅーん」 「……なに?」 「薬、効いてきたんでしょ」  楽しそうに言って、ベッドに腰掛けると俺の顔を覗き込む。俺はそんな正和さんから逃げるように布団で顔を隠した。 「知らない」 「今謝れば許してあげるよ?」 「……何を」  揶揄うような言い方に少しイラッとしてぶっきらぼうに聞き返した。布団を被っているせいか声がくぐもる。 「シャツなんか着て反抗的な態度をとった事」 「……俺、悪くないし」  謝った所で薬の効能がおさまる訳でもないし、そもそも俺は悪くないはずだ。

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