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第166話

「ふーん? 素直じゃないなぁ」  正和さんはそう呟きながら布団を捲り、俺の隣に入ってくる。布団が擦れただけなのに胸の辺りがビリビリして、背筋がゾクゾクと震えた。 「っ……」 「まあ、いいや。今謝らないんだったら今日はエッチしてあげないからね」 「別にしたくないし」  正和さんはクスッと笑って俺の事を抱き締めると、数分も経たないうちにスヤスヤ眠り始めた。  俺も寝ようと思ったが、薬を塗られた所が気になって中々眠りにつけない。特に乳首がムズムズして少し引っ掻いてみると気持ち良くて、指先で何度も擦った。  俺のことを抱き締めながら気持ちよさそうにスースー寝息を立てている正和さんの横で、こんな事をしているなんて、もし見られたら恥ずかしいし、いたたまれない。  せっかくの休みだと言うのに何で俺だけこんな思いをしなければならないのだろう。  結局俺は眠る事ができなくて、お昼に目覚めた正和さんと昼食をとった後、テレビを見ている彼の横でスマホゲームをやる。何かをして気を紛らわせようとしても落ち着かない。 「この俳優って純と同い年だっけ?」 「んー? 知らなーい。俺より一個か二個上じゃなかった?」  ドラマや映画で話題の若手イケメン俳優を見て「スタイルいいなー」なんて言いながらにやけている。 「……好きなの?」 「可愛いよねー、凄い好み」 「ふーん」  そう言うのが好きなんだ、とテレビに映った俳優をまじまじと観察する。 (体型は俺と変わんないと思うけど……。てか、顔だって化粧してんじゃん) 「あれ、どこ行くの?」 「……トイレ行ってくる」  立ち上がった俺を不思議そうに訊く正和さんに短く告げてリビングを出る。 (……何だよ、こんな若い子監禁してるくせに)  自分の部屋に行ってベッドに横になる。毎日正和さんの部屋で寝ている為、普段は使う事のないベッドだが、お手伝いさんがいつも綺麗にしておいてくれるので、シーツもスベスベで清潔だ。 (なんか……むかつく……っ)  エロい事ばっかしてくるし、襲われないようにしたら怒るとか体目的かよ。 「うぅ……ぐすっ……」 (……そういや最初からそうだ)  借金返済してやったんだからヤらせろみたいな感じだった。 「っ……ひっく」  布団を抱き枕にして顔を埋め、女々しい事をぐるぐる考えていたら後ろからふわりと温もりに包まれる。正和さんに抱き締められて固まっていると優しい声で名を呼ばれた。 「純?」 「っ……」 「どうしたの? 何でこんな所で泣いてるの?」  まるで子供を宥めるかのように、頭を撫でる優しい手。普段とは違う柔らかい声。背中を包む正和さんの暖かい胸。驚いて涙も止まる。 「だって正和さん、エロい事ばっかするし、結局、体目的じゃん。お金で俺のこと買ったから、そーゆう風にしか見てないんでしょ」  つい思ってもない事まで責めるように言ってしまってハッとすると、正和さんがため息をついた。 「……そうだよ」 「……!」 「そりゃあ、好きな子の可愛い姿見てたらエロい事したくなるのは男として当然でしょ」  そう言って抱き枕にしていた布団を剥がされ、彼の方を向かせられる。 「お金で買ったって言うのも否定はしない。そうじゃなきゃ純と一緒に居れなかっただろうし。これから先、手放す気もないからその方が都合は良いよね」 「……さいてー」 「そうかもね」  正和さんはクスッと笑ってそう言った。

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