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第168話 【第4章】

 昨日は月曜日だけど土曜日の振替でお休みだった。特にする事もなく家でゴロゴロして、正和さんは夕方仕事に出かけた。  今日は目覚ましが鳴る前に目が覚めたので、登校時間までまだ余裕がある。着替えも食事も済み、正和さんが作ってくれたお弁当も鞄に入れた。 「これからは帰りも拓人と一緒に帰っていい?」  恐る恐るここ数日思っていたことを訊くと、新聞を読んでいた彼はそれを置き顔を顰めた。 「……何で?」 「最近遊びにも行ってないし、その……寄り道はしないし、すぐ帰るから」 「だめ?」と正和さんのことを見上げると、納得したように彼の顔から険しい表情が消えた。 「ああ、付き合い悪くて疎遠になるのが嫌ってこと」 「うん。あ、いや、ダメなら別に良いんだけど……」 「いいよ」 「え?」  予想外の返答に思わず聞き返す。ダメ元で聞いてはみたものの正和さんが許してくれるとは思っていなかった。 「どこ行って何時に帰るか連絡してくれれば、遊びも行っていいよ」 「良いのっ?」 「うん、だけど浮気は許さないから」 「浮気なんてしないよ!」  する気なんて全くないし、もしそう言う気が起こっても正和さんが怖くてできやしない。 「本当はあまり行ってほしくないけどね」 「……うん。正和さんありがとう」 「でも門限は七時。夕飯は一緒に食べる事。分かった?」  コクリと頷いてもう一つ思っていた事を告げる。 「うん。あと、そろそろ髪切りに行きたいんだけど」  ここに来てもうすぐ二ヶ月。その前も色々あったから髪を切ったのなんて四ヶ月くらい前だ。両サイドの髪は耳にかかる所か、もうすぐ肩につきそうだし。後ろなんて肩より下まで伸びている。  学校は受験や就活のある三年生以外は特に厳しく言われる事はなく、髪色も派手な色でなければ注意を受ける事もない。  しかし、この長さにもなるとそろそろ鬱陶しくて自分が嫌だ。それなのに。 「だめ」 「何で?」 「もう少し伸ばそう? その方が似合うよ」  そう言って俺の髪を梳くように撫でる。 「……でも髪の毛邪魔」 「じゃあ前髪だけ切りに行こうか」 「後ろも切りたい」 「だめ。……ほらもう行く時間だよ」  そう言って立ち上がると俺の鞄を渡してくる。どうやらこれ以上この事で話す気はないらしい。 何故そこまで髪に拘るのか分からないが、諦めて鞄を受け取る。 「……行ってきます」 「行ってらっしゃい」  納得が行かないまま家を出て、いつものように途中から拓人と登校する。学校につくと拓人は所属している演劇部の部長に呼ばれて行ってしまった。  俺は教室に入って席につくが、まだ文化祭の片付けが終わっていないので室内はごちゃごちゃしていて汚い。 (……そういえば明日は正和さんの誕生日だ)  プレゼントは金曜日でいいとか言ってたけど、何かした方が良いのかな。でも何かするって言っても何をしたら良いんだろう。  鞄を机の横にかけて、頬杖をつきながら窓の外をぼーっと眺める。 (料理、とか? 喜ぶかな……?) 「姫おはよー!」  後ろからぎゅーっと抱きつかれてドキッとする。 「姫じゃないし」  笠原の頭を軽くポカっと叩いて体を離した。 「今日、文化祭の片付け終わったら打ち上げやるらしいけど行く?」 「俺はいいや」 「えー、姫も来ないの?」 「他に行かない人いるの?」 「拓人も勇樹も出ないってー」 「ふーん」  拓人は部活の方で出るのかな、なんて思っていたら拓人が戻ってきた。 「今日って片付けの後は授業あんの?」  鞄を机に置きながら振り向いて聞いてくる。 「どうだろー、でも去年とか普通に授業あった気がする」 「まじかー」  そんなくだらない会話をして勇樹も登校してくると、すぐにSHRが始まり挨拶と連絡事項だけ伝えられて、片付けに入った。

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