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第169話

 片付けが終わって、三時間目からは普通の授業が始まる。すっかりお祭りムードは消え去り、古典と英語の授業を受けて、お昼休みになった。  今日から俺もお弁当だから買いに行かなくても良い。拓人が購買から帰ってくるのを待って、いつものように四人で席を囲む。 「っ……!」  高校入ってから初めてのお弁当。  巾着袋からお弁当を取り出して、特に何も考えずに蓋を開けたら、思わず息が詰まり固まってしまう。 「何それー!」 「え? うわー」 「惚気すぎ~」  興味津々で見ていた勇樹の声につられて、拓人と笠原も弁当箱の中を覗き込んだ。勇樹は楽しそうに、拓人は少し引いた様子で、笠原はクスクス笑っている。  顔が熱い。耳が熱い。目頭が熱い。自分の顔が赤く染まっていくのが分かる。 (正和さんのばか!!!!)  お弁当にはカラフルな文字で『正和さん大好き』と書いてあった。しかも最後にハートマークまで書いてある。何で自分でこんな事が書けるのだろう。『純、愛してる』とかならまだしも。いや、それだって恥ずかしいけど。 (てか、こんなカラフルで手ぇ込みすぎだし、何でこんな無駄な事してんの。俺が凄いイタイ子みたいじゃん)  味はいつも通り美味しかったが、なんだか食べた気がしなかった。  六時間目の数学が終わり、部活の打ち上げにも出ないという拓人と一緒に帰る。いつもの通り他愛無い会話をして、ひよこの交差点で別れた。  家に着き、リビングの扉を開けると同時に声を張り上げる。 「正和さん!!」 「おかえりー。どうしたの? そんなに俺に会いたか――」 「お弁当作ってくれるのは嬉しいけど! 恥ずかしすぎるじゃん、あんな……あんな……っ」  正和さんの言葉を遮るように言うと、彼は少しきょとんとして考える素振りを見せた。 「んー? ……ああ、純の愛の告白?」 「っ! あんな事に時間かけるんだったらもう少し寝てなよ!」 「それはなに~。もう少し一緒に寝て朝エッチしようってお誘い?」 「はあ?」  相変わらず訳の分からない思考回路に顔を歪めると、彼はソファから立ち上がって俺の目の前まで来る。 「それより言うことがあるんじゃないの?」  ニッコリ笑う正和さん。優しい雰囲気ではあるものの、どこか怖さを含んでいる。 「え……た、ただいま?」 「あとは?」 「え、何……?」 「頑張って弁当作ったんだけどなあ。お礼の一言もなく文句?」  いつものように目をスーッと細め、低くなる彼の声音。 「あ、えっと……作ってくれてありがとう。でも、その……」 「純は俺のこと好きじゃないの?」

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