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第170話
「す、好き、だけど……」
「だったら良いじゃない。事実でしょ」
「そんなの二人だけの時で良いじゃん! わざわざ皆がいるとこで、しなくて、も……」
正和さんが楽しそうに口角を上げたから、不安になって言葉尻が小さくなった。
「ふーん?」
意味深長に呟いてニヤニヤする正和さん。
(まずい。俺、何かやばいこと言ったかも……)
「じゃあ今二人なんだし言ってよ」
「は?」
「正和さん大好き、って聞きたいなあ」
顔が少し赤く染まり、心臓がドキドキと早鐘を打つ。そんな恥ずかしいこと言えるわけがない。
「あ、えーっと……そ、そういえばもうすぐ期末だし、テスト勉強してくる」
くるっと正和さんに背を向けて、リビングを出ようとしたら腕を掴まれた。
「言ってくれないの? 俺、愛情不足で教科書とかに書いちゃうかもよ?」
「っ……」
それは新手の脅しですか。自分で自分のこと大好きって書いて何が楽しいの、ねえ。
「じゅーん」
「……ま、正和さん……大好き」
俯いて小さな声で呟くように言えば、腕を引っ張られ正和さんの方を向かせられる。
「なーに? 声が小さくてよく聞こえなかった」
わざとらしくそう言う彼は俺の顎を指先で掴み、顔を上げさせて視線を絡めてくる。耳や首筋まで真っ赤に染まり、手にはじんわりと汗が滲んだ。体全体が火照ったように熱い。
「~~っ、正和さんの事が大好きだって言ったの!」
自棄になってそう言えば、目を少し見開いて驚いたような顔をする。その隙をついて腕を振り払い、逃げるように自分の部屋へと駆け込んだ。
(もう、なんなんだよ……)
鞄を床に下ろし、その場に座る。ドキドキした胸を落ち着けるように撫でて、大きく息を吐き出した。
「はぁ……」
「じゅーん」
「っ……な、なんだよ」
突然聞こえてきた正和さんのご機嫌な声に驚いて振り返ると、ニコニコしながら扉の近くに立つ彼が居た。
「勉強見てあげようか」
鼻歌でも歌い出しそうな程ご機嫌な正和さんに、何か変な事をされるんじゃないかと疑ってしまう。怪訝な目を向けると彼は苦笑して椅子に座った。
「期末近いんでしょ? 分からないとこ教えてあげるよ、おいで」
優しい声音で他に意図があるとは思えない。どうやら本当に勉強するだけのようだ。
ご機嫌なのは大好きと言ったからなのだろうか。案外、正和さんって扱いやすいのかもしれない。
鞄から筆記用具を取り出して、机に置いてあった問題集を持って正和さんの隣に座る。科目はもちろん数学。テーブルの上で問題集を開き、早速解き始めた。
「ここは……」
正和さんの教え方は学校の先生よりも分かりやすい。分からない事を前提に丁寧に解説しながら教えてくれるので、数学が苦手の俺でもすぐに理解できるようになる。
そうして、夕飯までの一時間ほど、彼に教えてもらいながら期末テストに向けて勉強した。
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