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第171話
十一月二十六日。今日は正和さんの誕生日。彼は三十二歳になるらしい。俺の倍近い年齢。顔立ちが綺麗だから三十過ぎてるようには見えないけど、やっぱりおっさんだな。
なんて、こんなこと言ったら怒られるだろうから言わないけど。
誕生日プレゼントはプレイとして今週末に、ということなので心の準備だけしておく。
誕生日当日の今日は何をするかと言えば、悩んだ結果――。
「お誕生日おめでとう……っ」
起き上がり、寝起きでまだ隣にいる正和さんの唇に自分のそれを重ねる。彼は少し驚いた様子だ。俺はすぐに唇を離して立ち上がろうとしたら、腕を引かれて体勢を崩す。
正和さんの胸の上に乗ることになって、慌てていると、起き上がる隙もなく体を反転させられた。
「ちょっ……」
俺の背はベッドに、上には正和さんがいる。そして、そのまま彼の顔が近づいてきて――。
「んっ、んん……ふ、ぅ……っ、はぁ」
「……どうせならこれくらいしてくれないと」
舌を絡めて濃厚なキスを落とした正和さんはニヤリと笑う。
何だよ。せっかくしてあげたのに」
(むかつく)
「ふふ、嬉しかったよ。ありがとう」
正和さんはふわりと微笑んで俺の髪の毛をくしゃっと撫でた。
その後は普段通り朝食をとり、拓人と登校して、平常通りの授業を受ける。お昼は正和さんの作ってくれたお弁当で。何か変なことが書いてあったら、と思ったが、それは杞憂に終わった。
いつも通りとても美味しくて、午後の授業は眠くなる。
帰りは拓人が部活なので一人で帰った。途中にあるコンビニでモンブランケーキを二つ買って、それを正和さんに渡したら、凄く嬉しそうな顔をしてたから俺まで嬉しくなった。
誕生日の日から今日までの事はよく覚えていない。今日のプレイの事が不安で、その事ばかり考えていたせいか、ずーっとぼんやりしていた。
SMっていうと黒のピチピチの服を着てたりするんだろうか。帰ったら変態な格好で出てきたらどうしよう。
若干の不安を抱えつつ学校から帰宅するが、そんな事はなかった。タートルネックのセーターにスラックスといった普通の格好で出迎えてくれる。
ホッと胸を撫で下ろすと、彼は微笑んで優しい声音で言った。
「おかえり」
「た、ただいま」
「お風呂入ってるよ。ご飯もすぐできるから」
「……うん」
鞄を部屋に置いて促されるままお風呂に行く。
(SMプレイって、本当何するんだろう……)
正和さんの母からもらった本や、正和さんの部屋の本棚にあった本を見る限りどれも痛そうだ。ネットを見ても、もともと痛いのが好きな人の体験談ばかりで、痛いの嫌いな俺には耐えられそうもなくて泣きたい。
考え事をしながら少し念入りに洗ったせいで、いつもより十分くらい余計に時間がかかった。
お風呂を入った後は今日の出来事など他愛ない話をしながら、正和さんの作ったご飯を食べる。豚の角煮はホロホロで柔らかいし、卵は半熟なのに味がしっかり染みていて美味しい。
そのうち作り方を教えてもらおう。
「ごちそうさまでした」
「少し仕事してきても良い? 土日も休みとれたし、一時間で終わると思うから」
「あ、うん。片付け俺やるから置いといて良いよ」
「ほんと? ありがとう」
そう言ってリビングを後にする正和さん。
俺はお皿をキッチンの流しに下げて、テーブルを拭いて、皿洗いを済ませる。歯磨きしてトイレに行った後、正和さんの部屋へ行こうか自分の部屋へ行こうか迷ったが、仕事の邪魔をしたら悪いかなと思い、自分の部屋へ行った。
いつもと変わらない様子の正和さん。
もしかして約束を忘れてるんだろうか。
(……いやいや、正和さんに限ってそれはない)
土日に休みをとったのだって、きっとそのプレイがあるからだろう。
(んー、プレゼントだから俺から行動を起こすべき……?)
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