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第186話
「……じゃあ携帯見せて」
「えー、何で?」
(何を言ってるんだろう、俺は。てか、正和さんも何で渋るんだろう)
正和さんは気怠そうに立ち上がると、部屋を出て行ってしまった。
(何で……)
だが、呆然としていると彼はすぐに戻ってきた。手には携帯電話を持っている。
「はい。見ても良いけど、面白いもの入ってないよ?」
そう言って渡されたので受け取る。しかし、正和さんの前でわざわざチェックするなんてできない。なんか俺、凄く最低なやつみたいじゃんか。
「……返す」
自分の発言に後悔しながら正和さんに渡すと、彼はベッドに上がって俺の隣に座る。
「んー、純は何が見たかったのかな~」
揶揄うような口調でそう言って、ニヤニヤしながら通話履歴を開く。チラッと見て確認すると、そこには仕事関係の人の名前と俺の名前、正和の母の名前があった。
続いてメールを開く。受信フォルダーを開いて俺に見せるように、一通ずつ表示させていく。ほとんどが仕事関係のメールで、たまに俺からのメールと迷惑メールだ。
「え……?」
「あ……」
送信元に颯太と書かれたメールを見て、お互い固まる。ハートマークや絵文字をたくさん使ったそのメールは明らかに体の関係があるやつだ。
『今日は来てくれてありがとう。凄く楽しかったです。また色んなとこ行きたいなぁ。でも次はもう少し優しいプレイが良いです』
「えっと……純? これ、まだ純と暮らす前の話だからね?」
確かに日付を見ると俺と暮らす一ヶ月前のものだ。
(あれ? でも正和さん、俺の事それより前から好きだって言ってなかったっけ? ……まあ、別に良いけど)
「この時はただのセフレだし、純と会ってからは全く連絡とってないよ」
「ふーん」
「純……ごめんね?」
「いいよ、別に。てか携帯見たいなんて変なこと言ってごめん」
ベッドに横になって布団を肩まで掛ける。まあ、性欲魔人の正和さんが俺と会ってから他の人とそういう事をしてないなんて偉いじゃないか。
「ほんとにごめんって」
「うん、だからいいよ。俺、その頃関係ないし」
「純……」
困ったような声音で俺の名前を呼んで、携帯電話をサイドテーブルに置いた。
俺は鼻まで布団を被って、困った顔をしながら呆然とする正和さんに少し甘えてみる。
「でも、ちょっとモヤモヤするから……ギュってして?」
「純~、可愛い。愛してるよ」
「痛い痛い痛い」
しつこいくらいにぎゅーっと抱き締めて、顔中にキスの雨を降らしてくる。ちょっと鬱陶しいけど、これくらいしてくれる人の方がいい。
嬉しいな、なんて思っていたら正和さんは俺の顔をジッと見る。
「じゃあ、純の携帯も見せて」
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