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第187話
「……別に良いけど」
正和さんと友達以外の人とは連絡をとっていないし、見られて困るものはない。
「そこで充電してるから取って」
正和さんはテーブルの方まで歩いていき、スマホを充電器から抜くと、戻ってきて俯せで転がる。俺も腕を付いて俯せになり、正和さんが操作するのを覗き込んだ。
(え、何でブラウザ? ネットなんか見て何を……)
「へえ、SMプレイについて色々調べてくれたんだ」
閲覧履歴を開いた正和さんは、下にスクロールして手を止めると、ニヤニヤと笑みを浮かべる。
「……あっ」
「何だろうねー、これ」
顔が熱い。耳が熱い。肌が赤く染まっていくのが鏡を見なくても分かる。
正和さんは履歴から一つのページを開いて、そこに表示された動画の再生ボタンを押した。
「こーんなエッチな動画見るんだ?」
「っ……」
「ふーん。可愛らしい女の子。こういう子がタイプなの?」
「ち、違っ……」
スマホから漏れ出した女の子の喘ぎ声が部屋に響いて、恥ずかしすぎて画面から目を逸らす。
「でも諦めなよ、入れられてイっちゃう純に女の子なんて抱けないって」
「だから違うって……!」
「生クリームなんか使ってやらし~。……チューばっかしてるし甘ったるいね」
穴があったら入りたい。掛け布団にもぞもぞ潜り込んだが、彼が他に何を見るのか気になるので、少しだけ顔を出して様子を窺う。
「あれ? この男優……なんか俺に雰囲気似てる?」
「っ……!」
「へえ。そっか」
ニヤニヤとしながら俺の布団を剥いで、顔を覗き込まれる。カアァァと効果音がつきそうな勢いで顔が赤くなって、心臓がうるさいくらいに鳴り響く。
「女の子見てたんじゃなくて、女の子を自分に重ねて男優見てたんだ?」
「ぁ、いや、その」
「こんなプレイがしたいの? 可愛いね」
「っ……」
「でも……俺以外の男見てる余裕があるなら、もっと構ってあげないとかな」
「ひゃっ……」
腰にするりと手を回して、厭らしい手付きでお尻を撫でてきた。情欲的で妖艶な表情をされれば、心臓は早鐘を打ち体は火照る。
「や、今日はもう無理だって」
泣きそうになりながら震える声で呟き、彼の胸を押し返す。
「そうだね。今日は生クリームないし」
「っ……」
先程の動画のプレイをするつもりでいる正和さんの言葉に顔がボンッと真っ赤になる。熱くなり過ぎて湯気が出てきそうだ。
彼はクスッと笑うと、スマホを置いていつも通りの顔に戻り、優しく俺のことを抱き寄せる。
「んー、いい匂い。なんか最近女の子みたいな匂いするね、純の体」
「……意味わかんない」
(女の子みたないな匂い……?)
「女性ホルモンたくさん出てんのかな」
クスクス笑ってそう言われ、思わず自分の肩や腕の匂いを嗅ぐが、自分ではよく分からなかった。
「……今日も明日も休みだから、明日は出かけようか」
「どこに?」
「んー、純の行きたいとこ?」
「……特にないけど」
「じゃあ、ラブホ」
「っ!? やだよ!」
冗談だよ、なんて笑った彼の顔は冗談だったようには見えない。
「んー、久々にドライブでもしようか」
「……うん」
彼の提案に頷いて、抱きしめてくる彼の背中にそっと腕を回した。
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