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第193話

 ガチャガチャッと乱暴に鍵が開けられる音がして驚くと、ガラッと扉が開いて先生達が入ってきた。 「コラッ!! 何やってんだお前ら!」 「げっ!」  先生たちが来て、慌てた先輩達は俺から離れ、俺は床に倒れ込む。先輩達は体育教師と若手教師三人に捕まって逃げるのを諦めたようだ。  程なくして保健室の先生に起こされ、薄手の毛布を背中に掛けられる。タオルで顔を拭かれたが、生臭くて気持ち悪い。 「相楽くん歩ける?」 「ぁ……」  喉が震えて声が出ない。コクコクと頷くと、毛布を押さえるように肩を抱いて立ち上がらせてくれた。そのまま一緒に保健室まで向かう。五時間目が始まっているのか、廊下は静まり返っていて誰もいなかった。  保健室につくと、痛い所はないかとか聞かれて首を横に振る。多めのタオルとうがい薬を渡されて、保健室内の洗面所に連れて行ってくれた。  俺の服が入った籠と上履きも近くに置き、衝立式のカーテンで見えないようにしてくれる。 「ぅ……ひっく、うぅ……」  体の力が一気に抜けてその場にしゃがみ込むと、瞳からは涙がボロボロ零れだした。  怖かった。気持ち悪かった。  毛布をぎゅっと握り締めて泣き声を抑える。  これからどうしよう。正和さんにはなんと言えば良いんだろう。 「っく、うぅ、っ」  体が熱い。後ろが疼いて、熱を求める体が憎い。  十分程泣いてゆっくり立ち上がる。お湯を出して、汚れた顔をハンドソープで洗い、口の中も何度も何度もゆすいだ。 (気持ち悪い)  何度洗っても先輩の臭いがこびり付いてる気がして吐き気がした。タオルを濡らして自分の精液も拭き取り、綺麗に洗って絞っておく。  うがい薬をコップに入れてうがいするが、喉の違和感は消えない。タオルで顔を拭いて頭を上げると、鏡に映る自分が視界に入る。  泣きはらして赤くなった目。ゴシゴシ洗いすぎて腫れた唇。そして、思わず目にしたものにサーッと全身から血の気が引き、青ざめた。  あまりのショックに涙も止まり、目眩がしてくる。 「うそ………」  首もとには新しいキスマークがあった。  保健室の先生から『小林くんが知らせに来てくれた』と聞いた。拓人がいなかったら俺はきっと最後までさせられてたのだろう。  保健室のベッドに横になってぼーっとしていたら、五時間目終わりの鐘が鳴った。 「純~。入って大丈夫?」  カーテン越しに拓人の声が聞こえる。 「……うん」  起き上がると、シャッとカーテンを開けて中に入ってきて、すぐにカーテンを閉める。拓人の顔を見たら何故だか再び涙が溢れ出した。 「っ……どう、しよう……どうしよう」 「大丈夫、大丈夫。落ち着けって。……な?」 「正和さんとの事、バラすって。もし捕まったら……」 「……そんなの証拠なんてないだろ」 「でも一緒に住んでるしっ」  拓人に不安をぶつけると、彼は背中を優しく撫でてくれる。 「……今は保護者なんだろ? 何の問題もないじゃん。それにあんな事したあいつらはそれ所じゃないよ」 「……う、ん」 「三人とも無期停学になったって。だからしばらくは学校にこない」  背中をさすりながら、落ち着かせるように話す彼がなんだか凄くカッコよく見えた。 「……ありがとう、助けてくれてありがとう」 「でも俺、言いに行っただけで助けらんなかったし」 「拓人、ありがとう」 「……当然だろ」  そう言って頭を撫でられる。 「授業終わったら鞄持ってくる」 「ん……」 「あー、あと噂にはなってっけど、純をいじめて停学になったって事になってるから、心配すんな。この事は笠原達にも言ってない」 「……ありがとう」  ニカッと笑った彼は保健室を出て行く。  拓人の気遣いが嬉しくて、目頭が熱くなった。

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