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第195話

「おはよう。……学校は休む?」 「……大丈夫、行く」 「じゃあ、お弁当作ってくるね」 「うん、ありがとう」  夜中、嫌な夢を見て何度も目が覚めた。そのせいであまり寝た気がしないが、俺もゆっくり起き上がり洗面所に行って顔を洗う。  髪を整えてキッチンに行くと、卵焼きを焼いていた正和さんはこちらをチラッと見て、またフライパンに視線を戻した。 「朝ご飯はどーする?」 「……パンある?」 「あるよ。ちょっと待ってて」  火を止めて卵焼きをお皿に移すと、食パンを焼いてくれる。その間に俺は部屋に戻り制服に着替えた。 (よかった……)  シャツのボタンを全部留めれば、キスマークは隠れる。ぴったりしているため見えることもないだろう。  リビングに戻るとバターの塗られたトーストとコーンスープ、サラダ、先ほどの卵焼きが二切れ用意されていた。席につくとコップにオレンジジュースを入れて持ってきてくれる。 「いただきます」  まだ気持ち悪いけど、昨日食べていないせいかお腹は減っていた。完食して、鞄に荷物を詰め、コートを着る。 「はい、お弁当」 「……ありがとう」  受け取ってそれも鞄に詰めると、後ろから抱きしめられた。 「無理しないでね」 「う、うん……行って、きます」 「行ってらっしゃい」  チュッと頬にキスを落とされて体が離れてく。玄関を出ると少し足が震えた。  寒いなー、なんて自分に言い訳をするように誤魔化しながら、待ち合わせ場所まで歩いた。 「純、おはよー」 「……おはよ」  拓人はいつものように明るく、くだらない話なんかをしてくれて、変に気を遣われるよりも気持ちが落ち着いた。 「姫~!」  学校につくといつものように笠原が駆け寄ってくる。 「大丈夫?」 「う、ん……」 「集団リンチなんていったい姫が何したって言うんだ」 (集団リンチか……)  思わず心の中で苦笑しながら「大丈夫」と言って笑顔を作った。

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