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第196話
* * *
結局あの事は言い出せず、月曜のあの日から今日に至るまで、普段通りに過ごしている。日に日に積もっていく罪悪感に胸が押し潰されそうだが、言い出すことができなかった。
「今日は何の日だ」
今日は十二月六日。いったい何の日だろう。
「土曜日……?」
そんなのは分かりきった事だが、それ以外に浮かばない。すると、正和さんは唇を尖らせる。
「同棲して二ヶ月と二日記念日でしょ」
「……中途半端」
「平日だとたくさん祝えないじゃない」
「てか、同棲って……最初は監き――」
「じゅーん」
正和さんが怖いので、黙っておく。
「純は何食べたい? どっか食べ行く?」
「んー、特にない。いつも通りでいいよ」
「えー」
彼が面白くなさそうに顔を顰めたので、何か良い案がないか考える。
「……俺が作ろうか?」
「作ってくれるの?」
「正和さん程うまくないけど」
「愛情が入ってれば十分。嬉しいなー」
(あ、否定はしないんだ……)
若干落ち込みながら、何を作ろうか考える。
(んー、何がいいかな)
「じゃあ、俺はケーキ買ってこようかなあ」
「記念日のたびに食べるの?」
「ケーキ嫌い?」
「……好き、だけど」
「可愛い」
ぎゅーっと抱き付かれて息が苦しい。
正和さんのことを引き離してソファから立ち上がると、彼は少し残念そうな顔をした。
「何ケーキがいい?」
「正和さんと同じの」
「ふふ、じゃあご飯楽しみにしてるね」
そう言って彼は着替えるとコートを着て出かけて行った。
(……さて、何を作ろう)
エプロンをつけて冷蔵庫を開けると豚肉が目に入った。一通り冷蔵庫の中身を確認した後、すぐに閉めて献立を考える。
(……生姜焼き、とか?)
スマホでレシピを検索し、それを見ながら下準備を済ませると正和さんが帰ってきた。俺の手際が悪いからなのか、帰ってくるのが早く感じる。
「ただいまー」
「おかえりなさい。ご飯いつ食べる? お風呂入ってから?」
「んー、じゃあ、そうしようかな。純も一緒に入ろう」
「っ……お、俺はいいよ。正和さんの後に入る」
「何で?」
「……恥ずかしい、し」
キスマークは消えたが、裸になったら全部バレてしまう気がして怖い。
「えー、じゃあ夜くっつこーっと」
正和さんはニヤリと笑って冷蔵庫にケーキの箱をしまうと、キッチンを出て行った。
(……どうしよう)
今夜、いやらしい事をするつもりでいる正和さん。平日は学校で疲れていると言って断り続けたが、今日はどうしたら良いんだろう。正直に話すにも話すタイミングを完全に失ってしまった。
汚れた体を見られるのが怖い。
汚れた体に触られるのが怖い。
(……正和さん、ごめんなさい)
正和さんがお風呂を出た後、俺も手早くシャワーだけ浴びてご飯の準備をする。生姜焼きを作って、残った豚肉で豚汁を作った。鮭とキノコのホイル焼きに簡単なサラダもできている。
「美味しそー」
「レシピ通りに作ったから悪くはないと思う」
「いただきます」
正和さんが生姜焼きを口に運ぶのをドキドキしながら見守ると、彼はこちらを見てニヤッと笑った。
「ふふ、そんなに見つめちゃってかーわい」
「っ……美味しい?」
「美味しいよ、とっても」
(良かった)
正和さんはふわりと笑って、俺の作ったご飯をたくさん食べてくれた。一生懸命作ったご飯を美味しそうに食べてくれるのはなんだか嬉しい。
デザートにミルフィーユとショートケーキを食べた後、ソファでバラエティ番組を見ながら正和さんと談笑した。
「そろそろ部屋行く?」
「……うん」
いつも通り彼の部屋に行ってベッドに横になり、掛け布団を肩までかける。目を瞑ってすぐ、隣にいる正和さんに抱き締められた。
チュッと耳にキスされて体が反応しそうになる。
「あれ? ……純?」
「――――」
「寝ちゃったの?」
正和さんの残念そうな声が聞こえるが、俺は寝たふりを決め込んだ。服越しに胸を撫でる手にも反応せずにいたら、彼は明かりを落として俺のことを優しく抱き締めてくる。
暖かくて気持ち良い。正和さんの匂いに包まれて凄くドキドキする。
「はぁ……おやすみ、純」
彼の悲しそうな声に胸がチクリと痛んだが、そのまま眠りについた。
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