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第205話
暗かった外は少し明るく、夜明けを知らせている。意識を失ってからどれくらいの時間が経ったのだろう。汗やら涙やら精液やら、ベタベタして気持ち悪い。
正和さんはいつものように体を拭いてくれる事もなく、どこかへ行ってしまったのだろうか。
「正和さん……」
彼の名を小さく呼んでみるが返事はない。怒ってないと優しく言ってくれてたが、本当に怒っていなかったのだろうか。
体を流しに行く為、ベッドに手をつき立ち上がろうとするが、上手く力が入らない。
「うっ……っ、く……うぅ」
腰が痛い。体が重い。お尻が痛い。擦れた手首が痛い。噛まれた肩が痛い。足も痛い。喘ぎ過ぎた喉が痛い。……胸が、いたい。
嗚咽をもらして、ボロボロと涙を零しながら鼻をすする。
そう言えば、玩具は入れられたけど正和さん本人に抱かれてはいない。彼は服さえ脱いでいなかった。
(なんで……)
やっぱり他の男に触られて感じてしまった体は嫌なのだろうか。そんな事を考えて再び涙が溢れ出す。
「純……」
タオルを持った正和さんが部屋に入ってきて、彼は俺の泣き顔を見ると少し驚いた顔をした。そのまま俺の側まで来ると首から丁寧に拭いてくれる。
どうやら意識を失ってからまだそれほど時間は経っていなかったらしい。
「正和、さん」
「――――」
呼びかけても返事はないが、彼は労るように優しく拭いてくれる。それだけで安心できた。
だが、正和さんは拭いていた手をピタリと止めて口を開く。
「……連れてきた以上、大人になるまでは面倒見るけど」
(え……な、に……)
正和さんは真剣な表情で、ゆっくりと話を切り出した。何だか凄い嫌な予感がする。
「……純は、俺と一緒にいない方がいいかもしれない」
そう言った彼は目を合わせようとはせず、自分の手に握るタオルを見つめている。
頭を殴られたような衝撃と胸の奥がズキズキ痛むような感覚。彼の言葉が頭の中をぐるぐる反芻 して、思考がぐちゃぐちゃに掻き乱される。
(一緒にいない方が、いい……? それは、つまり――)
「別れよう」
「っ……」
落ち着いた声で静かに告げられたその一言は、鉛のように重く押 し掛かる。
胸が苦しい。息が詰まるような感覚がして声が出ない。
「……な、なんで、どうして」
「――――」
「おれのこと……嫌いになった……?」
動揺して震える声。突然の事に目の前は暗くなった。心臓はバクバクと飛び出しそうな勢いで脈打ち、耳鳴りまでしてくる。
「嫌いだったらあんな事しないよ。……ごめんね、酷くして。体痛いよね」
「じゃ、なんで……あ、おれ、汚いから」
「違う。純は汚くなんかないよ」
(何で、なんで……)
「俺は……純が酷い目にあってたのに気づいてあげられない所か疑って責めた」
「そんなの……俺が言わなかったから」
「でも襲われる原因を作ったのも俺。傷付いてる時に更に傷付けるような酷い事もした」
部屋の扉の方を見ながらそれ以上、話す様子のない正和さん。
なんでこちらを見ないのだろう。
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