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第210話

『イケメンだからリアルでも全然いける……!』 『同感です!』  ヒソヒソと話しているが、会話はダダ漏れで全部聞こえる。 (何がいけるんだ、いったい……)  彼と美容院を出た後は、写真のスタジオに連れて行かれた。何を撮るのかとビクビクしていたら普通の証明写真で。  受け取った証明写真をどうするのか疑問に思いながら再び車で移動し、着いたのは役所だった。 「写真持って何しに行くの?」 「行けば分かるよ」  彼はふわりと笑って車を降りる。若干緊張しながら後をついて行き中に入ると、窓口の近くに並べられた用紙を一枚取り、台の上に置いた。 「パスポート……?」 「そうだよ。ここに記入して」  言われた通り全部記入して、裏には正和さん署名する。彼が署名するのは俺が未成年だからだろうか。 「生徒手帳と保険証だして」  鞄から財布を取り出し、中から保険証を取り出して彼に渡した。手帳どこにしまったっけ、と鞄の中を探して制服のポケットに入れてたことを思い出す。  窓口で正和さんと職員が話をしてるのを隣でボンヤリ聞く。年末年始と土日がお休みだから、受取は一月八日以降になるらしい。  パスポートなんていったい何に使うんだろう。控えの紙を正和さんが受け止って、役所を後にした。 「……何に使うの?」 「春休み、お出かけしようと思って」  車に乗ってエンジンをかける正和さんに尋ねると、彼はにっこり笑う。 「春休みに?」 「うん。……本当は冬休みに行こうと思ったけど間に合わないからね」  楽しそうにそう言って車を走らせる。どこに行くのかは分からないが、春休みが少し楽しみになった。 (……あれ?) 「これからどこ行くの?」  今向かっている方向は家の方ではない。まだ何か用事があるんだろうか。 「病院」 「……なんで?」 (病院? 何しに? ……もしかして体調でも悪い?)  少し不安になったのが正和さんにも伝わったのか、彼はクスッと笑って軽い口調で言う。 「ちょっと検査しに行くだけだよ」 「検査ってなんの?」 「んー、……性病?」 (性病?) 「心配しなくて大丈夫だよ。あんな事があった後だから一応」  あんな事っていうのは、あの先輩たちの一件だろうか。 「大丈夫だとは思うけどそんな事する奴らって、病気もってたりするからね」 「もし、病気だったら……」 「治療すればいいだけ。大丈夫だよ」  不安を拭い去るようにニッコリ笑って、片方の手はハンドルを握ったまま、片方は俺の手の上に重ねた。温かくて優しくて、とても安心できる心地よさ。自然と笑みが零れる。  病院では正和さんと共に診察、採血、採尿をして、また後日結果を聞きに行くことになった。だが、注射とか針を刺すのってかなり苦手で、採血の時に針が怖くて逃げ腰だったせいか、彼に笑われてしまった。  正和さんだって痛いのは嫌いなくせに。ちょっとムカつく。  彼と先生は高校時代の同級生だったらしく、少しだけ話をしていた。

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