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第211話

 病院を出る頃には外はすっかり暗くなり、風が冷たく寒さに震える。冬だから日が落ちるのも早い。  車に乗り込んで、シートヒーターが温まり始めた頃、ようやく体の力が抜けた。 「夕飯どうする? どこか食べ行く?」 「……お肉食べたい」 「ステーキとか?」 「んー、ステーキでも焼き肉でも」  彼はクスッと笑うと携帯電話を取り出して、どこかに電話をかけた。どうやらお店に予約を入れたらしい。正和さんは通話を切ると携帯電話を閉じて俺の頭を撫でる。 「鉄板焼きの美味しいたこ行こう。三時間後だから一回家帰る?」 「うん」 「帰る前にちょっと寄りたい所あるんだけど良い?」 「良いけど、どこに?」 「んー、すぐ済むよ」  彼は曖昧な返事をして車を出すと、ご機嫌に笑みを浮かべながら俺の手を握った。少しして駐車場に車を停めると、 俺の頭を軽く撫でてドアに手をかける。 「ちょっと待っててね」 「……うん」 (何しに行ったんだろう?)  ぼーっと外を眺めながら待つと、十分程して彼が戻ってきた。小さな紺色の紙袋を後部座席に置き、運転席に乗り込む。 「お待たせ」  何を買ってきたのか気になるけど、聞くのはなんとなく躊躇われて聞けなかった。他愛のない話をしながら、彼の運転で家まで帰る。  家の中は常にエアコンがかかっているから暖かい。 (……宿題でもやっておこうかなあ)  制服から私服に着替えた後、リビングで冬休みの宿題を始めると正和さんも隣に座った。 「そういえばテストは? もう返ってきたよね?」 「あ、うん……」  ニコニコと聞いてくる正和さんに、思わず顔が引き攣ってしまう。今回は数学の点数がかなり悪かったので、あまり見せたくない。  だが、彼に「見せて」と言われてしまったら見せるしかない。(おもむろ)に立ち上がり、鞄からテストだけ引き抜くとそれを渡した。  初めはニコニコと楽しそうに見ていた正和さんだが、三枚目の紙を捲った所で固まる。 「……三十二」 「――――」 「あれだけ教えてあげたのに?」 「えっと……」 (だってほとんど分かんなかったし……)  そもそも問題自体、何を言ってるのか意味不明だった。それを解くなんて絶対無理に決まっている。そんなことを考えていたら、彼は小さなため息をついた。 「……次の学年末テスト、八十点以下ならお仕置きね」 「っ……で、でも他は八十点こえてるよ!」 「化学、七十六点だけど?」 「~~っ」  クラス平均三十八だから悪くはないと思う。だって難しかったもん。それに古典とか九十八だし。結構頑張ったと思う。 (それなのに……なんだよ、なんだよ……) 「俺が教えてあげるからそんな顔しないの」  彼は宥めるように言いながら全ての答案用紙に目を通す。 「……でも他は頑張ったみたいだね。お利口さん」  頭をよしよしと撫でられて嬉しいような、馬鹿にされてるみたいでムカつくような、なんとも言えない気持ちになった。

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