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第213話

「それもいいね」  拓人の住んでる場所は学校から少し離れた所にある寮だ。正和さんの家からもそう遠くない。 「いつにする?」 「んー、ちょっと聞いてみないと分かんないから帰ってから連絡するね」 「りょーかい」  拓人が前を向くと同時に担任の先生の話が終わる。あとは終業式が済めば下校だから楽だ。  ブレザーを羽織って、いつもの四人で体育館に移動する。  終業式の半分が校長の長い話で、それが終わると拓人と一緒に帰った。拓人と交差点で別れると、既に迎えに来てくれていた正和さんの車に乗る。 「おかえり」 「ただいま」 「どこか行きたいとこある?」 「行きたいとこ……?」 「ん、クリスマスだしデートでもするかなって」  デート、という言葉に少し嬉しくなるが、これと言って行きたい場所はない。 「んー、特には」 「じゃあ、家でごろごろしようか。今日はどこも混みそうだし」 「うん」  帰宅して彼が部屋で仕事をしている間、俺は冬休みの宿題を進める。夏休みと違って量はそんなに無いので、既に七割程終わった。  後は苦手な数学だけだ。一番苦手な教科の宿題が一番量が多いなんて……。それだけでやる気がなくなってくる。  一時になって、仕事を終えた彼がキッチンに立つ。少しして運ばれて来たのは、デミグラスソースのかかったフワフワとろとろで美味しそうなオムライス。 「いただきまーす」 (美味しい~)  美味し過ぎて自然と笑顔が零れる。顔を上げると正和さんが楽しそうに俺のことを見ていて、なんだか少し恥ずかしくなった。 「あ。冬休み、拓人と遊んでいい?」  今日した拓人との約束を思い出して尋ねると、彼は眉を顰めた。 「だめ」 「なんで! ……良いって言ってたじゃん」 「また純が危ない目にあったら困るから」 「たぶん拓人の家行くし、危なくないと思うけど……」 「だめ」 (む~~、なんだよ。この前は遊び行っても良いって言ってたのに)  これ以上言っても彼の機嫌が悪くなるだけなので、若干苛立っていたが言い返すことはせず食事を終えた。 「ちょっと来て」  歯磨きをして洗面所から出てきた所で手招きされる。 「なに?」 「いいから、いいから」  正和さんに手を引かれて、彼の部屋に行く。こんな時間からヤラシイ事をするのかと思ったら、胸が少しだけ早く脈打った。  しかし、ベッドの方へは行かずパソコンの前の椅子に座るよう促される。 「?」  彼は俺の後ろに立ったまま、左手は机について、右手でマウスを握り、何やら操作している。後ろから覆い被さるような仕草に思わずドキッとした。 「……何?」  パソコン画面に映し出されたのは旅館のホームページで。 「正月明け温泉行かない?」

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