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第214話

「温泉?」 「ん、たまにはそういうとこ行ってのんびりするのも良いかなーって。浴衣姿の純とイチャイチャできるし」 (浴衣姿……)  下心を隠す事もせず楽しそうに笑って話す正和さんは、一枚の写真をクリックして旅館のお風呂を映し出す。乳白色の湯を張った浴場は何だか雰囲気がとても良い。 「ここ、料理も美味しそうだし。……嫌?」 「嫌じゃないけど……今から予約取れるの?」  上を向いて正和さんの顔を見ると彼は悪戯な笑みを浮かべた。 「実は午前中予約しちゃった」 「え」 「サイトには空きなしって書いてあったんだけど、電話したら一番良い部屋が取れたよ」  そう言って微笑んだ彼が屈んで顔を近づける。ドキッとして目を瞑ると頬にチュッと軽くキスされた。耳を指先で撫でられてゾクリと体が震える。 「可愛い」  クスリと笑って耳元でそう呟いたかと思えば、そのまま耳を甘噛みされて、ジンジンと痺れるような感覚が伝う。 「っ……は、ぁ」  ぴちゃぴちゃと音を立てながら舌を耳に這わせて、頬を指先で優しく撫でられた。息が上がって、じんじわ滲んだ涙で視界はぼやける。 「ん……っ」  弱い快感が背筋をゾクリと震わせて、気持ち良い。ゆるく勃ち上がり始めた自身は明確な刺激が欲しいと訴え始める。  もっとして欲しい。 「まさかず、さん……っ」  だが、乱れた呼吸で彼の名を呼ぶと、ゆっくりと体が離れた。 「夕飯の下準備してくるね」 「っ……」  意地悪げに口角を上げた彼は、そのまま俺から離れ部屋を後にする。焦らしておきながら行ってしまうなんて酷い。  彼が出て行った部屋の入口を見つめながら、火照った体を冷ますように深呼吸をし、乱れた息を整える。唾液で濡れた耳がスースーして変な感じがした。  三十分ほどして下拵えを終えた正和さんと、ソファでテレビを見ながらゆっくりと過ごしていたのだが、時折煽るように撫でてくる彼の手に翻弄される。  逃げるように体を捩ると、楽しそうに厭らしい笑みを浮かべて、更に熱がこもった手付きで撫でるのを繰り返した。 「や、やだ……正和さん」 「気持ち良さそうな顔してるのに?」  そう言って触ってくる正和さんに最後までする気はないように見える。意地悪するのは勘弁して欲しい。  焦らすだけ焦らして、また放置するであろう彼を睨み付けたら、服の上から自身を揉むように撫で上げられて、背筋が仰け反った。 「ぁっ、だめ……意地悪、しないで」  彼の手首を掴み顔を見上げると、彼の目つきはいっそう厭らしくなった。ねっとりと舐め上げるようなそれに軽く身震いする。 「意地悪なんかしてないんだけどなあ」  心外だ、とでも言うような言い方をしているが、そうは思っていない時の涼しい顔である。 「はぁ、ぁ……やだ」  もうこうなったら逃げるのも無理だと諦め、正和さんとの距離を詰めて背中に手を回す。突然抱きついたせいか驚いた様子の彼は、厭らしく撫で回していた手を離しクスッと笑った。  そのまま優しく抱き締め返され、顔を覗き込まれると、なんだか凄く恥ずかしくなってくる。 「かーわい。純ってすぐ赤くなるよね」

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