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第215話

 うるさい、と睨み付けたら、彼はクスクス笑って俺の頬を撫で、宥めるように優しいキスをする。 「年末はどうする?」 「何が?」 「んー、休みだしどこか出かけるのかなーって」  出かけるって言っても冬休みだからどこも混んでいるだろうし、わざわざインフルエンザやら風邪菌やらがたくさんいる所へ行きたくない。 「……家でゴロゴロしてる。外寒いし」 「そっか。……あ、二十九日は丸一日仕事なんだ」 「ふーん。大変だねー」 「ごめんね」  単純に思った事を呟いただけなのだが、嫌みに聞こえたらしく、彼は申し訳なさそうに謝る。いつもなら『そういう意味で言ったんじゃない』と否定するのだが、先程たくさん意地悪してきてたので放っておいた。 (一日仕事かぁ……一人で何しよう)  ぼーっと考えて、一つだけ思い付く。だが、そんな事を正和さんに言ったら怒られそうなので、すぐに考えを取り消した。  拓人と遊びたいけど、あんな事件があった後で彼が許可してくれるはずもない。 「ちょっと早いけどご飯にする?」 「うん」  彼はソファから立ち上がると軽く伸びをしてキッチンへ行った。俺も手伝いに後をついて行く。 「うわー」 (凄い……)  何がって冷蔵庫の中にあるクリームの量。それとは別にクリスマスケーキも作ってあるし、余ったにしては多すぎる量のクリームに思わず声が出てしまった。 「こんなにたくさんのクリームどうするの?」 「どうするって……食べるに決まってるじゃん」 「……まだ何か作るの?」 「ふふ、とっても美味しいデザートになるよ」  彼は楽しそうに笑って夕飯の準備をする。クリスマスだからか普段よりも料理が豪華だ。相変わらず正和さんの作るご飯は美味しそうで、自然と笑みが零れる。  下拵えしてあったのと、既に何品かは作ってあった為、テーブルにはあっという間に料理が並ぶ。手際の良い彼に感心しつつ、飲み物と箸を運んで椅子に座った。  少ししてローストビーフを切り分けてきた正和が目の前に座り、食べ始める。 「これ、どうやって作ったの?」 「ワイン蒸し? フライパンで蒸しただけだよ」 「そうなんだ」  どれを食べても美味しい。正和さんは何でこんなに料理が上手なんだろう。  そのうち毎日ご飯とか作ってあげたいけど、これだけ彼の料理がうまいと自分の作った物を食べてもらうのは申し訳ない気持ちになる。 「どうしたの?」 「ううん、なんでもない。正和さんが作るご飯美味しいなって思って」 「良かった」  彼が嬉しそうに微笑むものだから、つられて口元が緩む。

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