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第222話

 十二月二十八日。  昨日も今日も朝食には牛乳を出してくれた。一昨日のように嫌味な事を言ったり、からかったりもしなくなったので、気持ちも穏やかだ。身長が伸びるのを僅かに期待して、毎日続ける事にする。 「明日は十時半から仕事だからお昼は一緒に食べれないや」 「帰りは?」 「遅くなる。日付が変わる前には帰るつもりだけど……」 「そっか、大変だね」 「んー行きたくないなー。純といた方が楽しいのに」  仕事であれば楽しい楽しくないは関係ないと思うけど……と、思いながら口には出さず苦笑する。 「でも明日だけなんでしょ?」 「まあね。純が冬休み中は一緒にゆっくりしようと思って」  ソファに座りながら腰に腕を回していた彼は、そのまま俺の足に顔を埋めるように転がった。膝枕の状態でソファに横になる正和さんの頭に触れる。髪を梳くように頭を撫でると、すり寄って幸せそうな顔をした。 「甘えてるの?」 「そうだよ」  彼の頭を撫でながらふざけて聞けば、柔らかな声音で肯定する。 「はぁー。明日もずっとこうしてたい」 「……いつも一緒にいるじゃん」 「だから離れたくないの」 「ふーん」  たまにこういう子供みたいな所があるから憎めない。 「リモコンとって」  正和さんに言われて、ソファの上に置きっぱなしだったテレビのリモコンに手を伸ばす。彼に膝枕したままだったので少し腹筋が痛かった。  リモコンを手渡すと彼はテレビのスイッチを入れ、チャンネルをワイドショーに切り替えて、リモコンを置く。  話題のスイーツを紹介している女性タレントが可愛い。昔好きだった女の子とどことなく似ている。 「最近のって見た目可愛いけど、あまり美味しくなさそうだよね」  カップケーキのような物を紹介しているのを見て言う正和さん。確かにそう思う。作り方も企業秘密を除き大まかに紹介しているが、どう見ても美味しくなさそうだ。  一緒にいる男性タレントも少し口にするが、微妙な表情をしている。面白い、新しい味と評価してる所からして実際美味しくないのだろう。 「甘ければ良いのか……女性の味覚謎」 「……写真映えするから良いんじゃないの?」 「あー」  最近は皆SNSで写真アップしてるし、と付け加えると彼は納得したように頷いた。  テレビを見ながらのんびり過ごしていたら、あっという間に夕方になる。彼は書類の整理をすると言って部屋にこもった。 (明日一人かあ……)  遊びにでも行ければ良いけれど、この間襲われた事もあり、外には出させてくれないだろう。彼が仕事に行っている間こっそり出かけるのはどうだろう、と考えるが、おそらく家から出られないよう鍵をかけて行くに決まっている。 「あ、そうだ」  スマホを取り出して拓人にチャットを送ってた。 『明日空いてる?』  少ししてすぐに既読マークがつく。 『空いてるよー。でも遊び禁止じゃないっけ?』 『明日仕事で一日中いないらしい。だから遊べると思う』  既読がついてから少しの間が空く。 『大丈夫なの?』 『んーたぶん。ばれなきゃ平気だと思う。もし抜け出せなかったらごめん!』 『いや、それは良いけど……。バレても俺知らないよ?』 『大丈夫大丈夫!』  笑顔のスタンプを送ったら、向こうもガッツポーズのスタンプを返してきた。  拓人とチャットのやりとりをした後は、残っていた数学の課題を進めて半分程終えた頃、夕食の時間となった。  今日はロールキャベツにポテトサラダ、鶏肉の煮物と彼の作るご飯は相変わらず美味しそうだ。

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