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第223話

* * * 「風邪ひいた? 大丈夫?」  朝起きて咳をする俺を見た正和さんが心配そうに顔を覗き込む。額に手を当てて、うーんと唸った後体温計を持ってきた。 「熱はなさそうだけど、一応計ってみて」  体温計を脇に挟み、しばし待つとピピッと終了を知らせる電子音が鳴る。手を差し出す正和さんに体温計をそのまま渡すと、彼は眉を顰めた。 「六度八分……純って平熱低かったっけ?」 「んー、六度五分くらい?」 「熱はないけど、咳酷いね」 「……あと頭も痛い」  彼は困った顔をして、とりあえずベッドへ横になるよう促した。 「ご飯は食べられそう?」 「……うん」 「じゃあ持ってくるから待ってて」  そう言って部屋を出ていった。背中には嫌な汗をかき、心臓は早鐘を打つ。 (はあーっ、ドキドキした)  一応医者でもある正和さん。仮病なんてすぐに見破られるかと思ったが、意外とすんなり通った。  少ししてホットドッグと野菜スープを乗せたお盆を手に戻ってくる。 「困ったなあ。今日休めないから一緒にいてあげられないけど大丈夫?」  コクリと頷いてホットドッグを口にすると、彼は「ごめんね」と謝った。 「……正和さん」 「ん?」 「あの、俺……病院行ってこようと思う」 「病院?」 「うん」  後ろめたさから小さく頷いて、彼の返事を待つ。 「んー、……でも今からだと間に合わないしなあ。帰りも遅いし……」 「一人で行ってくるよ」  最初から正和さんについて来てもらうつもりはない。むしろ来られたら困る。 「うーん……」  彼は顔を顰め悩んでる様子で、顎をさすった (……無理かも?) 「一人で行ってこれる?」  しばらくして心配そうに聞いてくる彼に頷く。 「気をつけてね」 「うん。……正和さんもお仕事頑張ってね」  俺が食事を終えると彼は食器を片付けて自分も食べたようだ。朝起きたのが遅かったから、あっという間に正和さんが行く時間となり、慌ただしく出て行った。  彼が出て行ってから十分程して、拓人にチャットを送る。 『今から行くー』  すると、すぐに既読マークがついて返事がきた。 『おう。待ってる』  彼の返信を確認してから着替えて、俺も家を後にする。  拓人の住む寮で話をしたりゲームをしたりして久々に遊んだら、楽しい時間はあっという間に過ぎた。冬は日が落ちるのが早く、六時となった今、外は真っ暗だ。 「そろそろ帰る」 「おう、またなー。良いお年を」 「良いお年を~」  家から出れないように鍵をかけられると困るから、正和さんには病院へ行くと言った。だが、やっぱり行かずに家にいたという事にしておけばいいだろう。そんな事を考えながら帰宅した。  玄関の扉を開けてすぐ、正和さんの靴がある事に気づいた。今日は仕事が夜まで、それも十二時近くになるような事を言っていた彼が、既に帰宅している事に驚く。

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