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第226話

 目が覚めたのは十時頃。  泣いたせいか痛む頭と腫れた目元。顔を洗うと水の冷たさに目が覚め、頭痛も少し引いた。  このままではまずい、と思って、正和さんの部屋に行き、トントンとノックして恐る恐る扉を開ける。だが、そこに彼の姿はない。ベッドも綺麗に正されており、いなくなってからしばらく経つのか、気配は全く感じられなかった。 (仕事? ……でも二十九日だけだって言ってた)  背筋にゾクリと悪寒が走る。そのままリビングに行くが、書き置きをしていく事もなく出かけたようだ。外出するにしても、いつもなら食事の準備を必ずしておいてくれるのに、今日はそれもなかった。  心臓がうるさいくらいに脈打って、手が震える。食欲も湧かないので自分の部屋に戻って、再び横になった。  自分が悪いのは分かってる。分かっているけど、こんな話もできない状況でどうしろと言うんだ。考える事は放棄して、ぼーっと天井の一点を見つめる。  ここまで怒るなんて思わなかった。このまま仲直りできなかったらどうしよう。  お昼を過ぎても帰ってこない正和さんに連絡を入れるべきか、スマホのメール画面を開いたまま考え込む。 『昨日はすみませんでした。とても反省しています。話がしたいので、』 (……違う)  一度文字を消してからもう一度打ち直す。 『嘘ついて怒らせてしまってごめんなさい。今更後悔しても遅いけど、正和さんに嫌な思いさせてしまって、とても反省しています。帰りは何時に』 (~~っ、違う)  どう書いたらうまく伝わるのか。彼の機嫌をこれ以上損ねたくないし、帰ってきて欲しい。とても反省しているし、彼にちゃんと謝りたい。  考えれば考える程、文章にまとまりがなくぐちゃぐちゃになっていく。  相手の気に障らないように、且つ、自分の思いを伝えると言うのは難しい。 『嘘ついてごめんなさい。一晩色々考えてとても反省してます。帰って来るの待ってます』  結局、文を書き始めてから1時間ほど経ち、当たり障りのない短いメールをいれた。  正和さんから連絡があるかもしれないと淡い期待を抱き、スマホを握りしめていたが、一時間経っても二時間経っても彼からの返信はない。  朝も昼も食べていないせいか少しお腹が空いてきて、冷蔵庫を覗き、何を食べようか食材を一通り見る。 (……よし)  夕飯を作って彼の帰りを待とう。  料理をしてれば気も紛れるし、一緒にご飯を食べれば、少しは彼の機嫌を取り戻す事ができるかもしれない。  そう思って、レシピを調べながら調理を始める。今日のメニューは、鱈のパン粉焼き、ほうれん草のバターソテー、オニオンスープ。  ある程度作って、後は焼くだけや温めるだけの状態にしておく。  だが、シャワーも浴びて彼の帰りを待つが、いつもの夕食の時間になっても帰って来ないし、返信もない。ソファに膝を抱えて座り、昼過ぎに送ったメールをぼーっと見つめる。  そのまま数時間が経ち――。  もしかしたら今日は帰って来ないかもしれない。そう思ったら目頭が熱くなってきて、それを堪えるように唇を噛み締めた。

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