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第228話 (正和視点)
昨日、純が風邪を引いたから仕事を予定よりも随分早めに切り上げて家に帰った。しかし、家に純の姿は無く、結局帰ってきたのは俺が帰った三時間後だった。
早く帰った為、仕事を全て終える事ができなかったが、それは純の為に俺が勝手にした事だ。それに対して不満はない。
だが、心配して帰ったら実際は仮病だった。嘘ついて出かけていた事に、裏切られたような気持ちでいっぱいになった。正直凄く腹が立った。
本当は今日の仕事は他の人に任せておけば良いのだろうが、一晩経ってもイライラはおさまらず、朝から仕事に出た。
夜になって「そろそろ帰ってやれ」と言う零夜に追い出されるようにして店を出たが、家に帰る気は起きず、鬱さ晴らしに男の子を呼んだ。
だが、そんな気も起こらず、料金を払って一時間ほど話だけして、予定より三十分ほど早くホテルを出た。
『束縛しすぎじゃないですか? まあ、嘘は良くないと思いますけど……きっと今頃反省して泣いてると思いますよ』
先程の真面目そうな男の子に言われた事が頭の中を反芻する。純と一つしか違わないのにとてもしっかりした印象だった。
(束縛のしすぎ、ね)
確かに少し制限し過ぎた部分があるかもしれない。だが、やはり嘘は許せない。
携帯電話を開き、純からのメールを見つめる。
『帰って来るの待ってます』
(泣いてる、か……まあ、心配はするよね)
何も言わないで出てきてしまったし。とりあえず帰るだけ帰ろう。
家に帰ると、すぐ謝るかと思っていたが、びくびくしながらも普通に会話をする純。
(はあ……)
大きな溜め息が出そうになるのを堪えて、部屋に行こうとする。
「っ……あの、正和さん……」
「もう寝るから一人で食べて」
泣き出してしまった純を見ていたくなくて、足早に部屋へ戻ろうとすると手首を掴まれた。
「ごめんなさい。嘘ついて、ごめんなさい。……本当に、ごめんなさい。もう二度としないから……ゆる、って、くださ……っ」
「――――」
「ぅっ……ごめん、なさい、本当に反省してます……っ、お仕置き、してください」
自分から仕置きを強請るとは珍しい。きっと本当に反省したのだろう。
ご飯まで作ってくれて、一生懸命機嫌を取ろうとしている純にこれ以上冷たい態度をとるのも酷だ。そう思うのだが、どうしても許せない。
「すみません、でした……もう二度としないから……っ、許してください」
嗚咽が漏れぬよう息をのみながら静かに言葉を紡ぐ純は俯いて萎縮している。それなのに俺の手首は強く握り締めたままで離す気はないようだ。そんな純を一瞥 してから、徐に口を開く。
「……もし、また嘘ついたらどうする?」
「どうする、って……」
泣き止もうとしても中々泣き止めないらしく、しゃくり上げながら鼻を啜る。
「また同じ事するかもしれないから罰を決めておかないと」
「っ……もう、しません」
首を左右に振って『もうしない』と言ってくる純。掴まれていた手を離し、正面から向き合って、少し考えてから試すような事を言ってみる。
「……じゃあ、次嘘ついたら焼印 しようか」
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