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第239話
「うん……でもそんなに遊び行かないと思うよ」
「約束守れば怒ったりしないよ」
「ん。って言うか、正和さんと一緒にいたいし」
「っ……」
彼は少し驚いたように眉をぴくりと動かして、顔が若干赤みを帯びた。
「あ……いや、別に深い意味はないから!」
「じゅーん」
「っ……」
ぎゅっと抱き締められて、痛みに顔を顰める。
「可愛い」
「……可愛くないし」
「あ、そういえば明日の午後、彰子さんたち来るって」
「たちって……お母さんの他にも誰か来るの?」
「姉さんと弟も来るらしい」
そう言って面倒くさそうに伸びをする。
「お正月の挨拶?」
「んー、そうだけどそうじゃない」
「え?」
「まあ、俺の脇でニコニコしててくれれば良いよ。大丈夫……じゃないけど、たぶんなんとかなる」
正和さんにしては珍しく歯切れの悪い返事で不安になる。お姉さんと弟さんもお母さんみたいな感じなのかな……。初めて彼の母に会った日の事を思い出し身震いする。
「純は、お正月いつもどうやって過ごすの?」
「え……普通に、テレビみたり、おせち食べたり、ゴロゴロしたり?」
「おせちは何が一番好き?」
「栗きんとん」
即答だな、とクスクス笑われる。
(いや、だってそれ以外美味しいのなくね? あ、数の子も美味しいな)
美味しい食べ物を思い浮かべると思わず頬が緩む。
「じゃあ栗きんとんは追加で作ろうか」
「え、あれって作れるの?」
「ん? 作れなきゃ売ってないでしょ」
「いや、そうだけど!」
正和さんって凄い。
お昼ご飯を食べて、正和さんが栗きんとんを作るところを見学し、夕方は再びベッドでゴロゴロした。
夕飯を食べてお風呂に入り、いつもより夜更かししながらテレビを見たりして、今年最後の日を正和さんと一緒に過ごす。
年越しエッチしたかったなあ、なんてふざけた事を言う正和さんを無視して年越しそばを食べた。
「和服エッチもいいよね」
「――――」
「あーもう、純が悪さしなければ色々できたのに。……早く治るといいね」
いや、もうしばらく治らなくて良いよ。お尻が痛いけど、彼に付き合うよりは今の方が良い。
そんなことを考えていたらテレビが騒がしくなる。どうやらカウントダウンが始まったらしい。
『三、二、一……』
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
「今年も宜しく」
彼はそう言って微笑むと額にキスを落としてくる。
「ん、こちらこそ」
「さーて、そろそろ寝よっか」
「うん」
食べた食器を片付けて、歯を磨く。
(明日は正和さんの家族と会うのか……)
気になるし会ってみたいけど、不安の方が大きい。
「おやすみ、純」
「ん……おやすみなさい……」
ベッドに入って正和さんの腕に包まれれば、あっという間に眠くなり、睡魔に意識を持っていかれた。
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