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第240話

「はい」 「……お年玉?」  お年玉と書かれた小さな封筒を渡されて戸惑う。 「わざわざ良いのに」  いったいいくら入っているのだろう。かなりモコッとしている。 「それしまってきたら、テーブルにご飯並べて」 「はーい」  自分の部屋に行って机の引き出しを開ける。しまう前に中身の確認をするが、予想外の物に思わず咳き込んだ。 「っ……」  一万円札が三枚。鞭叩き券が五枚。媚薬引換券が三枚。優しいプレイ引換券が二枚。  いや、肩叩き券みたいなノリで鞭叩き券って……。俺がこれ使うと思ってんの?  新年早々なんなんだいったい。 (あ、でもこれは……本当に優しくしてくれるのかな?)  激しいプレイばかりだから、そうだとしたらいいかもしれない。 「……っ!」  いやいや、騙されるな。それじゃ、正和さんの思うツボじゃないか。そんなもの使う癖がついてしまったら困る。 「正和さん!」 「んー? これ向こう持ってって」  正和さんにひとこと言ってやろうとキッチンへ行くと、角煮をよそった皿を渡される。 (うわ、美味しそう)  その見た目と匂いに食欲がそそられる。 (あー、もういいや)  普通じゃない彼と真面目に取り合おうとしても疲れるだけだ。角煮をテーブルに運んで、冷蔵庫に入っていたおせち料理も並べると、インターホンが鳴り響いた。 「俺が出るから良いよ。箸とグラス六個ずつ用意して」 「六個?」 「うん、六個」  そう言って、彼は玄関へ行った。  俺と正和さん、彰子さん、お姉さん、弟さん……あと一人は誰だろうと思いながら、箸とコップを並べる。 「純くん、久しぶり。あけましておめでとう」 「……お久しぶりです、あけましておめでとうございます」  リビングに来た彰子さんに話しかけられて、緊張して体が固くなる。 「初めまして。正和の姉、由美(ゆみ)です。こっちは息子の(りく)。宜しくね」  そう言って微笑んだお姉さんは想像と違い、とても人当たりが良く優しい雰囲気だ。 「はじめまして、純です。宜しくお願いします」 「斎藤陸、七才です!」 「……七才だと小学生?」 「うん。四月になったら二年生になるんだー!」 「そっか」  陸くんも元気いっぱいで素直そうだ。正和さんや彰子さんのような人ばかりだったら、どうしようかと思ったが、そうではなかったのでほっと胸をなで下ろす。 「兄さんの手料理久々だなあ」 「子供じゃないんだから離れろ」 「え~、いいじゃん、可愛い弟が遊びに来たんだよ~?」 「はいはい、とりあえず中入れ」  廊下から正和さんと弟らしき二人の声が聞こえてきた。随分と甘えた声を出している事に驚く。 (正和さん三十過ぎてるし、弟だったら二十代……だよな?)

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