241 / 494
第241話
リビングに入ってきた二人の近くに行って、挨拶する。
「は、初めまして。純です」
「…………」
(あ、あれ……聞こえなかった? いや、なんか急に機嫌悪くなった? どうしよう)
無言で俺のことを見てくる彼の弟に、泣きたくなる。
「芳文 。挨拶くらいしろよ」
「……はいはい。弟の芳文、宜しくね?」
そう言って手を差し出してくる。
普段握手なんてしないから戸惑いつつ、その手を握った。
「っ……」
(痛い……っ)
強く握られ、芳文さんの小指と薬指の爪が食い込む。痛みに慌てて離そうとしたら、今度は爪が当たらないようにぎゅっと握られた。
芳文さんの顔を見上げると、何事もなかったかのようにニコニコ微笑んでいる。
「……宜しく、お願いします」
芳文さんは手をパッと離して、再び正和さんの腕を取り、甘えたような声音で近況を語り出した。
(なんか俺、芳文さんに嫌われた?)
抓られた右手をさすりながら考えるが、会って数秒、特に嫌われるような事をした覚えがない。
「純くんもほら、座って」
由美さんに呼ばれて、空いている陸くんの隣に座る。前の席には正和さんがいて、その隣に芳文さん、彰子さんが座っている。
陸くんの隣には由美さんがいて、目の前の彰子さんと話していた。
「さ、いただきましょ」
彰子さんがそう言って、皆が今年も宜しくと言い合い、食べ始めた。
正和さんと芳文さんは仲良さそうに話し、彰子さんと由美さんも楽しくお喋りをしている。なんだか凄く疎外感を感じた。
食事中は食べる事だけに集中していたが、食べ終わって片付けも終わると、話す事もやる事もなくて困った。
(……部屋戻ろうかな)
きっといなくても問題ないだろう。
皆が帰る時に挨拶だけしよう、そう思ってリビングを出る所で声をかけられる。
「純くんって何才?」
陸くんがこちらを見上げて、首を傾げた。
「……十七だよ」
「十七才って大人? 子供?」
「んー、子供……かなあ」
「じゃあ遊ぼ!」
そう言って腕を引っ張られた。リビングを出て廊下を歩いていくので慌てて止める。
「陸くんどこ行くの?」
「んー、本がいっぱいあるんだよ」
そう言って手を引っ張って、再び歩き出すのでついていく。
陸くんが開けたのは俺も入った事のない部屋。そのままついて行くと本棚がたくさんあった。こんなにたくさん何の本が置いてあるんだろう。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!